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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「ドラマの種を花咲かせる」三丘同窓会総会講演
母校の大阪府立三国丘高校は、同窓会がしっかりしている。それだけ母校愛は熱く結束は固く、「三国」というだけで今井雅子やその作品を応援してくださっている方も多い。

来年の同窓会総会の講演を、と昨年電話をくださった同窓会事務局の丸山芳美さんは、『パコダテ人』の頃から見ています、とのことだった。

学校での講演が続いているが、今回は年配の先輩方が多いとのことで、「ドラマの種を花咲かせる」と題して、日常からドラマの種を拾い集めて、水をやり肥料をやり、作品という花を咲かせる過程を実例で紹介しつつ、「ネタにする=元を取る」という話にした。


これまでに手がけた作品がどのように生まれたかを、まずは震災前の映画『パコダテ人』『子ぎつねヘレン』朝ドラ「てっぱん」で紹介。

函館山のてっぺんで酔っ払った頭にまずタイトルが思い浮かんだ『パコダテ人』は、ぱぴぷぺぽのマルにヒントを得て、「欠点ではなく、おまけ」という個性の話にした。その発想の源には、横並びが前提の日本から、みんな違うことが前提のアメリカに飛び込んだ留学経験があった。

生まれたばかりのわたしを見た祖母の第一声が「鼻がない、穴しかない!」で、鼻が低いことがコンプレックスだったけれど、留学先のアメリカでは「平たい顔」をうらやましがられた……というエピソードが、どっと受けた。

皆さんがよく笑い、熱心にメモを取られる様子が壇上から見えて、とても気持ちよく話せた。

『子ぎつねヘレン』では「辛+一=幸」(辛さを幸せに変えるのは、たった一人の強い味方)なのだと脚本を書きながら発見し、「てっぱん」では、「家族」とは何かを皆で煮詰めていった結果、「家族=つくるもの」ということを半年かけて描こうとなった。

「タネ=ネタ」を拾うには「傘と心は開いたときが一番役に立つ」の心がけ。心の傘を開かせるおまじないは「おもろい」。おもろいことないかなと辺りを見回し、見つけたらおもろいと感心する。この繰り返しで、自然とネタが身につく。

拾ったネタを逃さないためにおすすめなのは「脳みその出張所」を持つこと。昔なら日記帳に書き留める、今ならブログに書いたり、ツイッターでつぶやいたり。人に話すのも、記憶を焼きつけるには有効。わたしが講演を好きなのは、人に話すと、自分の代わりに「あんた、こないだ、こんなこと言うてたで」と覚えていてくれるから。

「人生、失敗したもん勝ち」と思っていたし、出産も子育てもネタと思えば苦労は報われ、困難は乗り越えられてきた。

あの日までは。

あるとき、「即興脚本ライブ」というイベントをやった。脚本作りは連想ゲームで、コミュニケーション能力を磨くのにも役立つという手応えを得た。それが2011年3月7日の月曜日。その週の金曜日に震災があった。

ネタにしようがない現実に打ちのめされた。その9日後には京都で講演を控えていたが、何を話していいか頭が真っ白になった。

そんなとき、新聞の風刺投稿欄で見つけた「足りないもの ○力」という言葉。○には「電」ではなく「伝」があてられていた。大事な一言が足りなかったり、余計な一言が付け足されたりが、混乱や不安や争いを招いていた。人をつなげ、救うのは、「伝力=伝える力」。その力を強くするために、自分にできることがあると思えた。

NHKよる★ドラ「ビターシュガー」の脚本作りは「これを震災前の設定にするか後の設定にするか」の検証から始まった。未来からの逆算で今を生きるのではなく、一瞬一瞬を写真を撮るように積み重ねた先に未来がある、という考え方は、震災後の価値観の中で生まれたと思う。

震災復興企画として依頼されたNHKアニメ「おじゃる丸スペシャル 銀河がマロを呼んでいる〜ふたりの願い星」では、打ち合わせを重ねるなかで「おじゃる丸が銀河鉄道から種をまき、被災地に花を咲かせる」というプロットをあらため、「おじゃる丸が自分の幸せのために旅した結果、幸せは自分がいるここにあると気づく」物語にした。



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06月24日(日)
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