ID:93827
脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
[794853hit]
■ 小さな焦げ跡より大きな傷
夕飯を終えて、たまが「きゃんどるやるぅ」と言い出し、テーブルに出してあったキャンドルを灯した。
たまをテーブルに残し、オープンキッチンの流し場でお皿を洗っていたら、「わ! どうしよう!」と悲鳴のようなたまの声がして、あわてて駆けつけると、テーブルの上に、赤々と燃えるマッチ棒が横たわっていた。
わたしも「わーわー」と大騒ぎして、消してみると、マッチ棒だと思ったのは、爪楊枝だった。
キャンドルをいくつか灯すとき、マッチ棒がもったいないので、わたしが爪楊枝で火を移していたのを見て、覚えていたのだろう。キャンドルの火を爪楊枝で受けたものの、炎が指に迫ってきて、持ちきれず、落としてしまったらしい。
新居に合わせて数週間前に届いたばかりのテーブルに、焦げ跡がついた。「もう、なんてことしたの!」と叱りながら、テーブルをごしごししていると「だって、どうしていいか、わかんなかったんだもん」と、たまが泣きだした。
考えてみれば、手元に火を持つ体験といえば、花火ぐらいで、指先から数センチ先に炎を受けて、それが迫って来たのは初めてのことだったのだろう。怖くて、あるいは、熱くて、思わず落としてしまったら、テーブルの上で火が燃え続け、「わ! どうしよう!」の悲鳴となった。
そのことに気づいて、ごしごしの手を止め、「たま、怖かったね」と抱きしめると、たまはいっそう強く泣いた。
その後、「まま、だいっきらい」と言い捨て、寝室にたてこもった。
テーブルには、うっすら焦げ跡が残ったけれど、無垢の木ならではの木目や傷に紛れて、目を凝らさないとわからない。それよりも大きな傷を、球の心に刻んでしまった。
「たまへ おこってごめんね。こわかったね。けがしなくてよかったね。でてきて、あそぼ」と手紙を書いて、ろう城を続ける寝室のドアの下に滑らせると、しばらくして「もどってきたよ」と部屋を出てきた。
大きな焦げ跡なら、見るたびに思い出すのだろうけれど、記憶を呼び覚ますきっかけにはなりそうにないささやかさなので、書き記しておこうと思う。

>>>今日の日記をTweetする
06月19日(火)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る