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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 整骨院のウキちゃん8 ノオッ!プリーズ!サンキュー!編
今井雅子日記の隠れた人気連載「整骨院のウキちゃん」、このところウキちゃんがかなり人間の掟を学習してしまってカルチャーショックを受ける機会が減ったせいでお休みしていたが、相変わらず整骨院通いは続いている。娘のたまを保育園へ迎えに行った帰りに子連れで寄ることが多く、先日、ウキちゃんがたまの診察券を作ってくれた。たまがいつも背伸びをしてわたしの診察券を箱に入れたがるのを見て、気をきかせてくれたらしい。
たまは大好きなウキちゃんに会いたくて、喜んでついてくるが、わたしは院長と助手のウキちゃんの掛け合い、さらに患者の皆さんを交えた会話を楽しみに通っている。ウキちゃんがダイエット話をしていると、「ウキちゃん、腰に浮き輪ついてるんです」と口をはさむ院長は、口が減らない患者さんに「ウキちゃん、口にテーピングしといて」と軽口で命じる。長屋のようなにぎやかなおしゃべりをうつぶせで聞きながら、肩凝りのついでに頭の凝りもほぐしてもらっている。
「頭の中のレコーダーを回せ」というタイトルで先日提出した「月刊ドラマ」8月号掲載の「セリフと寄稿」の原稿に、「会社を辞めてフリーになった今は、電車やカフェで過ごす時間がめっきり減ったが、整骨院で肩こりをほぐされながらテープを回す。うつぶせで施術されているので、台詞から人物を想像する練習になっている」と書いた。字数の関係でこのくだりを削ることになってしまったが、今のわたしにとって整骨院は格好の台詞収集の場。今日、隣のベッドで舌好調だった患者氏と院長のやりとりが、最高におかしかった。
患者「雷門のバス停に行ったらよ、外人のでかい女が、三人かけられるベンチを横向きで二人で占領してたんだよ。それで俺がノオッ!って言ってやったんだ」
院長「外人さん相手に、ビシッと言ったんですか」
患者「だって詰めりゃもう一人座れるんだよ。ベンチの横にいたんだよ。びっこのばあさんが」
患者「びっこは放送禁止用語ですけど」
患者「とにかくよ、かわいそうじゃない。それでノオッ!って言って外人さんどかして、プリーズ、サンキューって座ってもらったんだよ」
院長「ちょっと待ってください。そのおばあさん、日本人ですよね」
患者「ああ、そうだよ」
院長「だけど、プリーズ、サンキューですか」
患者「そうだよ」
院長「その外人さんもびっくりしたでしょうね。雷門に行ったら雷オヤジがいて」
患者「近頃はみんなガツンと言わないだろ。一人ぐらいうるさいのがいねえと」
隣のベッドでうつぶせになって笑いをかみ殺しながら、おいくつぐらいの方なんだろうと想像する。声の調子や言葉遣いからは高齢だと思われるが、やたらと他人を年寄り扱いするので、実は若いのだろうかと予想が揺れる。患者氏は雷門バス停のおばあさんの話を続けて、
患者「今日は4がつくババアの日だから、でかけてたんだな」
院長「ババアの日って……巣鴨の4の日のことですか」
患者「4の日はババアが多くて、バスなんか大変なことになってるよ。こないだも急ブレーキかけたら、杖ついて立ってたばあさんが腰でスピンして飛んできたからな。運転手に言ってやろうかと思ってよ。バスの前んとこに『4の日』って貼っとけって」
とバスの運転手をしかった後、話題は公園での健康体操に移った。
患者「公園でばあさんたちが体操してんだよ。人よりちょっとでも長生きしようと思ってさ、いじらしいじゃない」
院長「でもそのひとたち、年下なんですよね?」
患者「戸籍抄本とったわけじゃねえけど、八十過ぎてるってことはないだろ」
それを聞いて、隣の患者氏が八十を超えていることがわかった。
患者「俺は無駄なおしゃべりしてるヤツを見ると、注意するんだよ。口の体操はよそでやってくれって」
院長「口の体操……うまいこと言いますねえ」
患者「体操するときは、集中しろってんだよ。いじらしくやってるばあさんの横で、老いらくの恋だかなんだか知らねえけど、毎日しつこくしゃべりかけて邪魔している野郎がいるから、昨日注意してやったんだ。いい加減にしろって」
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07月04日(土)
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