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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 涙は世界でいちばん小さな海
昨日の夜、娘のたまがお風呂に入るときに泣き(このところ毎回ぐずる)、お風呂上がりに「たまちゃんの なみだ すっぱいよ。なめてみて」と言ってきた。「すっぱいじゃなくて、しょっぱいだよ」と訂正しながら、映画『子ぎつねヘレン』でヘレンが太一の涙をなめてあげた場面を思い出し、連想の糸をたどって「涙は世界でいちばん小さな海」という言葉を思い出した。
脚本を書き始めた頃、コンクール入賞が縁で初めてディレクターから「ラジオドラマのプロットを書いてください」と声がかかり、大はりきりで書いた。今だったら本命の一本に注力して、保険でもう一本という出し方をするけれど、当時は「やる気を見せることが何より大事!」だと鼻息を荒くし、10本ほどを送りつけた。帯に短し襷に長しの10本で、どれも採用には至らなかったが、その中の一本に「世界でいちばん小さな海」の話があった。この言葉を発見して、何かで使いたくてしようがなかったのだ。コピーライターとして勤めていた広告会社の仕事でも提案した覚えがある。
10年ほど前の出来事ですっかり忘れていたけれど、2才児のしょっぱい涙に思い出させてもらった。「世界でいちばん小さな海」というタイトルに惹かれているので、ドラマでも小説でも何か作品にしてみたい。まずは手っ取り早く、子守話で。一昨日の土曜日、子守のあてがなく、自宅でたまを見ながら原稿を書いていることになったのだが、たまは朝から「じんじゃ いく」と呪文のように唱え続け、「後でね」「これ終わったらね」と言っているうちに日が暮れ、それでも「じんじゃ」と食い下がっていた。罪滅しの気持ちを込めて。ママが約束を破ったお話。もうひとつは、遠い海へ去った友だちの話。
子守話84「せかいでいちばんちいさなうみ その1」
こんどの にちようび うみに つれていってあげるねと
たまちゃんの ママは やくそくしていたのに
おしごとで うみに いけなくなって しまいました。
「ママの うそつき」
たまちゃんは かなしくて なみだが こぼれました。
なみだは しょっぱくて うみの あじが しました。
ひとつぶめの なみだで たまちゃんは
きょねんの なつに いった うみを おもいだしました。
ふたつぶめの なみだで たまちゃんは
さかなが あしの あいだを すりぬけた くすぐったさを おもいだしました。
さんつぶめの なみだで たまちゃんは
うきわで なみに ゆられた きもちよさを おもいだしました。
「たまちゃん ごめんね」と ママが だきしめて
たまちゃんの なみだは かぞえきれなくなりました。
「いいの たまちゃんは いま うみに いるから。
せかいで いちばん ちいさな うみで あそんでるの」と
たまちゃんは いいました。
すると ママの めからも なみだが ふってきて
たまちゃんの ほっぺたに ちいさな うみが できました。
ほんものの うみは つめたいけれど
おふろみたいに あったかい うみでした。
子守話85「せかいでいちばんちいさなうみ その2」
たまちゃんが かっていた かめの タートルが
にげだして いなくなってしまいました。
「きっと タートルは ふるさとの うみに かえったのよ」と
ママが いいました。
タートルのことを おもいだしていたら
たまちゃんは なみだが ぽろぽろ こぼれてきました。
「ママ なみだが しょっぱいよ」と
たまちゃんは なきながら いいました。
「なみだは せかいで いちばん ちいさな うみだから」と
と ママは いいました。
タートルの いる とおい とおい うみが
たまちゃんと つながった きが しました。
これから なみだが こぼれるたびに
たまちゃんは タートルのことを おもいだすでしょう。
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06月29日(月)
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