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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「バカ」と言われて傷つき、「うるさい」と叫ぶ。
今朝、娘のたまを保育園に送って行くと、「お母さん、昨日の件はあれから三者面談をしまして、たまちゃんにもわかってもらいました」と担任の保育士さんに言われ、「昨日って……なんの話でしたっけ」となる。「たまちゃんが言われたあの言葉の……」とヒントをもらって、「ああ、あのことですか」と思い出した。

昨日、たまが登園したところに駆け寄ってきた同じクラスの男の子が、いきなり「たまちゃんってバカだね」と言ってきた。とてもうれしそうな「いいこと言うぞ」の顔でやって来たので、何を言ってくれるのか期待したわたしも面食らったが、たまは殴られたような顔になった。「わたし、きずつきました」と語るその顔がみるみる崩れて、「うえーん」と泣き出した。うちではバカという言葉を使わないし、たまが口にするのを聞いたこともないけれど、「バカ」の意味はわかっていて、それが人を傷つける言葉であることを身をもって感じているのがわかった瞬間だった。

覚えたての生意気な言葉を使ってみたいイタズラ心は理解できるし、男の子に悪気はなく、もちろん本心で言ったのでもないこともわかったので、「たま、大丈夫だよ。たまのこと、ほんとにバカだなんて思ってないよ」と慰め、涙をすするたまを託した担任の保育士さんが、その後で「三者面談」を開いたのだった、面談では、男の子がバカと口にしたことがなぜいけないのか、言われたたまがどんな気持ちになったのかを説き、男の子とたまの双方に「人にバカと言うのはやめようね」と言い聞かせたという。子どもだからと聞き流すのではなく、2歳児相手に真剣に向き合い、正しいことと間違ったことを諭してくれる先生の姿勢に頭が下がった。

人を困らせる言葉には子どもを喜ばせる中毒性があるようで、たまは「うるさい!」と叫ぶ快感に最近目覚めてしまった。保育園でこの言葉を叫んでまわりを凍りつかせるお友だちを見て、「うるさいといえば、みんなこまって、うごけなくなる」ことを覚えたらしく、うちで自分の思い通りにいかないことがあったときや叱られたときなどに「うるさい!」を連発するようになった。これまでは「ダメでしょ」「うるさいって言われたら悲しいよ」「そんなこと言うたまちゃんは嫌いよ」などと注意していたのだけど、いっこうに懲りてくれない。ちょうど今夜、また「うるさい!」が飛び出したとき、今朝の保育士さんとのやりとりを思い出して、「なぜ、うるさいと言ってはいけないか」にもう少し踏み込んでみようと思い立った。

「たま、うるさいって言われると、悲しい気持ちになるのは、どうしてかわかる? うるさいってことはね、あなたの声を聞きたくありませんってことでしょ。おしゃべりしたくないってことでしょ。それって、あなたとは何にも一緒にしたくありませんって聞こえるの。たまちゃんがママにうるさいって言ったら、ママはね、たまちゃんはママがいらないんだって思って、淋しくなるから、悲しい気持ちになるの」とわたしが語るのを神妙な顔で聞いていたたまは、
「うるさいって いって ごめんね。うるさいって もう いわないよ。ママ すき」と言った。ただ「ダメ」と言われるより、ダメな理由を説明されたほうが、腑に落ちる。2歳児にもその説得は十分通じるんだなあと感じた。

友人の川上徹也さんが書かれた本『仕事はストーリーで動かそう』の中に、教訓などを物語にすると、子どもにも理解されやすく、「嘘をついてはいけない」と理屈で言われるより、嘘をついたらどんな困ったことになるかを描いた「狼と少年」のストーリーに感情移入したほうが抑止力は働くといったことが書かれてあった。頭ごなしの禁止より、体温の通った言葉の説得、もう一歩進めて「おはなし」にしてあげると、「あなたのことを思って言ってるんですよ」という気持ちも一緒に伝えられる気がする。

そんなわけで今日の子守話は、なぜ「うるさい」や「バカ」と言ってはいけないか、のお話。

子守話68「うるさい ごめんなさい」

どうぶつむらに サイくんのかぞくが ひっこしてきました。
サイくんは はずかしがりやですが みんなと すこしずつ なかよくなって 
どうぶつむらが だいすきに なりました。

ところが あるひのこと。

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05月21日(木)
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