ID:93827
脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
[786491hit]

■ 「第2回万葉LOVERSのつどい」でますます万葉ラブ!
第1回に続いて審査員を務めたNHK奈良主催の脚本コンクール「第2回万葉ラブストーリー」募集。審査会で大賞1作品佳作2作品を選んだ6月12日からわずか3か月の間にホン直し、撮影、編集が進められ、活字だった3つの受賞作は、それぞれ10分あまりのオムニバス3作品となった。その「ドラマ万葉ラブストーリー夏」の完成を記念した「第2回万葉LOVERSのつどい」が今日開催された。会場は奈良女子大学記念館。明治時代に建てられたという美しいたたずまいの洋館は、国の重要無形文化財だとか。講堂の高い天井に施された装飾や、舞台正面の壁に配された謎の扉に、胸が高鳴る。

今回の受賞者も全員女性。そのうちの一人、『人込みさがし』で佳作を受賞した宮埜美智さんは、昨年『フルムーン ハネムーン』で受賞した藤井香織さんの友人で、わたしの一日シナリオ講座を一緒に聴きに来てくれたことがあった。審査の段階では作者名は伏せられているので、受賞が決まった後に知ったのだけど、うれしい偶然。大賞作品『誰そ彼からの手紙』を書いた高橋幹子さんは、今年のフジテレビヤングシナリオ大賞も受賞。立て続けにコンクールの最高賞を射止めるのは、才能に加えて運も強力な証拠。受け答えからも自信と意欲が伝わってきて、たのもしい。『つらつら椿』(ドラマ化にあたって『花守り』と改題)で佳作を受賞した縞古都美さんは受賞をしみじみと感激している様子。わたしもコンクールがきっかけで脚本家デビューをしたので、自分が経験した授賞式を振り返りながら、今日の感動が書き続ける力となりますようにと願った。

開演直前に、司会の中村宏アナウンサーと杉本奈都子キャスター、審査員で万葉学者の上野誠先生と第一部のトークショーの打ち合わせ。前回はドラマに登場する万葉集の歌3首を紹介しつつ展開したのだけど、ネタバレになる恐れもあるので、今回は路線変更することに。上野先生が「万葉集の巻七の冒頭にこういう歌があるんですが……」と手書きのメモをテーブルに出した。

 天の海に
 雲の波たち
 月の舟
 星の林に
 漕ぎ隠る見ゆ

「この歌からどんな場面が思い浮かぶかについて話すのはどうでしょう」と上野先生。作者は詠み人知らず。誰が誰に向かってどんな場面で詠んだ歌か思いを馳せるところから脚本作りは始まる。「まさにそういうことができたらと思ってました」とわたし。2回審査をやってみて、「ストーリーに万葉集の歌を盛り込むのではなく、万葉集の歌を原作にしてストーリーを膨らませる」ことが万葉ラブストーリーの必勝法だと確信したところ。その作業のさわりをトークで披露できたら面白い。

ホワイトボードもなく、パワーポイント上映もできないというので、上野先生が読み上げる歌を復唱して頭に入れつつ、一人ブレスト開始。月夜の海に小舟を浮かべて語り合う若い男女がすぐに思い浮かぶけれど、脚本家としては、中村アナや杉本キャスターが思いつかないような変化球を投げてみたい。開演の挨拶を舞台袖で聞きながら思いをめぐらせ、ふと「宝探しの暗号みたい」と思った。「謎解き」というヒントを得て、言葉遊びのスイッチが入り、歌をあらためて眺めると、もうひとつ発見。「できた!」とストーリーが見えた瞬間、名前を呼ばれて壇上へ。

即興脚本作りに入る前に、まず、上野先生が大きなハートを縫い付けたわたしのワンピースを話題に上げた。万葉「ラブ」にちなんでハート服を選んだのだけど、「近くで見ると、すごく縫い方が荒いんですよ」と上野先生。会場の笑いを誘ったところで、「この服を作ったデザイナーはこんな目に遭うとは想像してなかったと思うんですけど、万葉集の作者たちも自分の作品がドラマにされるなんて思ってなかったでしょうね」とわたしが引き取った。リード上手な上野先生との掛け合いは、気持ちよく話がつながる。



[5]続きを読む

09月15日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る