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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 『ドルフィンブルー』と『ヘレンケラーを知っていますか』
今日は映画を二本。映画を観るのも仕事。ママズクラブシアターでの子連れ鑑賞もいいけれど、子どもを預けて作品に集中して観られるのはありがたい。まず、午前中は松竹試写室にて『パコダテ人』の前田哲監督の新作『ドルフィンブルー』。病気で尾びれを損傷したイルカに人工尾びれをつけるという実話から生まれた作品。主役のイルカ・フジをモデルとなった本人(本イルカ)自ら演じ、今もフジが暮らす沖縄美ら海水族館が実名でロケ地として使われ、人工尾びれ再生プロジェクトに関わったブリジストンも実名で登場。ドキュメンタリーのようなリアリティと映画ならではのフィクションのストーリーがうまく絡み合って、切実さとかわいらしさをあわせもった愛せる作品に仕上がっている。驚いたのは、イルカの演技力。表現力と呼んだほうが正しいだろうか。何かを語りかけるような豊かな表情、流線型のボディが描くなめらかで優雅な軌跡、泳ぐさまも宙を舞う姿も実に絵になる。ずっと眺めていたいぐらい、見ていて飽きない。正直、ここまでイルカに引力があるとは思っていなかった。
イルカに限らず、一生懸命に生きている命って美しいということに気づかせてくれるのが、この作品。尾びれを失って「浮いているだけ」のフジを何とかしてやりたい、と奔走する新米獣医(松山ケンイチさんが熱演)や、その熱意に応えようとするブリジストンの開発者(田中哲司さんの演技とは思えない演技に、「本物?」と思ってしまった)、ときには喧嘩もしながら尾びれプロジェクトを支える水族館の館長(山崎努さんが実に楽しそうに演じている)やスタッフたち(池内博之さん、坂井真紀さん、利重剛さん。この三人もなりきってます)……それぞれがプライドを持って自分のやるべきこと、できることに取り組む姿を見て、命は張り切っているときにひかるんだなあと思った。水族館を囲む風景も音楽も、交わされる言葉も、全編に美しい空気が満ちて、観ているうちに気持ちがまあるくなってくる。イルカのつるんとした背中みたいに。『パコダテ人』の脚本作りをしていたとき、前田監督が「動物映画で成功する、と占い師に言われた」と話していた。「動物映画じゃないけど、しっぽが登場するから、パコダテ人のことを予言したのかも」とそのときは思ったけれど、占い師が見た未来には、イルカが映っていたのかもしれない。
前田監督は女優さん、とくに少女を魅力的に撮るのがうまいと思う。フジに自分を捨てた母親を重ねている不登校の少女ミチルを演じる高畑充希さんは、この作品が映画デビュー作の15才。心を閉ざした役なので台詞は最小限だし、怒ったようなすねたような「笑ったらかわいいんだろうなあ」という表情が続くのだが、それゆえラストの台詞と表情がしあわせな余韻となって残った。主題歌『大切なもの』でデビューする「みつき」さんとは写真を見ると同一人物なのだけれど、プレス用パンフにもそのことは記されていない。女優としても、歌手としても、これからの成長に注目したい。
もうひとつ、前田監督らしいと思ったのが、エンディングのクレジットロール。フジをはじめ出演しているイルカ全員(全頭)の名前が連なり、地元のエキストラ出演者の名前も『パコダテ人』に負けない行数でしっかり刻まれている。同じ苗字が五人も六人も続くのは家族だろうか。大家族が多い沖縄ならでは。プレス用パンフの出演者のコメントには、「この作品に関われてよかった」という思いがあふれている。とても雰囲気のいい現場で、前田監督が伸び伸びと撮っているのが目に浮かぶよう。自信を持ってすすめたい作品で、自分のことのようにうれしくなる。松竹の制作部に顔を出し、「キツネもすごいけど、イルカもすごいですよ」と宣伝。公開は2007.7.7と7づくしの日。
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04月12日(木)
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