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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ マタニティオレンジ72 出産ドキュメント
昨日のマタニティオレンジを書いて、五か月も前のことをよく覚えていることに驚いた。強烈な体験は、一瞬一瞬がストロボを焚いたように、心の印画紙に焼き付けられるのかもしれない。最近読んだ漫画家の桜沢エリカさんの妊娠出産ドキュメント『贅沢なお産』にも刺激を受けて、記憶が鮮明なうちに、あの日のことを書き留めておこうと思い立った。
予定日を一日過ぎた8月21日月曜日、生まれる気配はないけれど、家でじっと待っているのは落ち着かないので、マタニティビクスへ。ズンズンという刺激は天然の陣痛促進剤になるのだが、お盆休みで一週間レッスンが空いていた。19日が予定日のトモミさんも来ていて、「今日の刺激で陣痛が来るかも」と笑いあう。自宅まで一時間半の道のりを歩いて帰る途中、「しばらく外食もできないし」とヌーベルシノワの店でランチを取る。帰宅し、ご近所仲間のT氏に借りていた『加藤泰 映画を語る』を読み、喉が渇いたな、と台所へ立ち、オレンジにストンと包丁を入れた瞬間、バン!と破裂音。フローリングの床を見ると、足元に直径三十センチほどの白濁した水たまりができていた。
わ、破水だ、と口に出して言ったわたしは意外と冷静だった。時計を見ると、17時20分。エコー検査で「たっぷりあるわね」と助産師さんにほめられた羊水は自分の体温であたためられてあったかく、温泉湯元になった気分。と、感心している場合ではない。30週の妊婦検診で見つかったGBS(Group B Streptococcus B群溶血性レンサ球菌)が薬でも消えず、母子感染する可能性があった。羊水というバリアが取り払われると、胎児は菌に対して無防備になってしまうので、抗生物質の点滴を受けなくてはならない。助産院に電話をすると、「すごく急がなくてもいいけど、早く来なさい」と言われる。電話を切ると、オレンジを食べ、出発。陣痛でアイタタなおなかをかばいながらヘイ、タクシー!の予定が狂い、羊水を受け止める巨大紙おむつをあてて電車に乗り込む。
改札を通り過ぎたとき、下腹に痛みを感じた。「お、来たかも」。破水してから二十四時間以内に陣痛が来ないと助産院では対応できず、病院に搬送されるので、陣痛様歓迎なのだった。時間は17時50分。3つ先の駅で降りて助産院へ向かう途中に軽い痛み、3分後に初めてギューッと締めつけられるような痛みが来た。歩きながらレポート用紙をはさんだバインダーとペンを取り出し、記録開始(以下、緑字で再録)。18:09軽 12ギューッ。出産というまたとない体験をネタとして書き留めない手はない。19軽 24ギューッ 29軽。はっきり陣痛だとわかる痛みが、交互に緩急つけてやってくる。36ギューッ。腰痛い。
助産院に着き、体重を計り(56.5キロ)、採尿。出産用の前開きガウン状パジャマに着替える。45ギューッ。48ギューッ。かなり腰痛い。50注射 注射と書いたのはGBSをおさえる抗生物質の点滴のこと。入院は自分が生まれたとき以来だが、点滴も初めて。効果は6時間。それまでに生まれなければ追加で打つ。「生まれていることはまずありえないわね」と助産師さん。初産なので目標は明日のお昼と言われ、「そんなに持ちません!」と悲鳴。いやいや、大変なのはこれからよと笑われる。話している間に、55ギューッ。
19:00軽 05かなり 11かなり しんどくなってきて、「痛い」を省略。
20最大 22弱め 腰骨に指をめりこませるようにするとラク
25いたい 30いたい 34歩くがしゃがみこむいたさ 「痛い」が漢字で書けずひらがなになる。ここで、それまでいた診察室を出て、入院室に案内された。ベッドとテーブルと洗面台のある個室。
36痛い 犬のポーズやると楽 40呼吸吐くのを意識するとラク。犬のとき腕のほうにぐっと力いれる。44 かなり痛 47 鈍痛 50 かなり痛 ベッドに移動
漢字を書けているということは比較的余裕があったのか。
52〃 56〃 59〃 「かなり痛」と書く体力がなく、簡略化。
20:01最大 03〃 06〃
10 12 14 16 20 22 25 〃を振る気力もなく、数字を記すのが精一杯。
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02月05日(月)
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