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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ シナトレ2 頭の中にテープレコーダーを
いまいまさこカフェのお客様に「あれは、もうやめたんですか?」と聞かれるもの、カフェめぐり日記、ガーデニング日記、ブログ、メルマガ、そして、2004年の9月に第1回をやったきりのシナトレ。

すべて忙しさにかまけて手が回っていないだけなのだが、待ってくれている人がいるうちにやらなくては。で、いちばんサボリ期間の長いシナトレから。脚本家になりたい人にシナリオを書くコツを伝授するという心がけは立派なものの、3日坊主ならぬ1回坊主になっていた。

第1回ではシナリオコンクールを採点競技に例えたが、シナリオの練習はスポーツのトレーニングに似ていると思う。いろんなアプローチがあり、人によって相性があるが、試行錯誤している間にも筋力や体力や気力は養われる。筋トレの場合、「今ここの筋肉を鍛えている」と意識しながら負荷をかけると効果的だというが、シナトレの場合も、日常の何気ないことを「これは台詞の勉強だ」「これは設定の研究だ」と意識すると、シナリオを書くのに必要な筋肉が身についていく。

誰にでもできる手軽なシナリオ筋トレとしておすすめなのが、「頭の中にテープレコーダー」法。これはわたしがコピーライターとして入社したときに上司に教えられたもの。「頭の中にテープレコーダー(「テープ」というところに時代を感じるが、記憶装置ってこと)があると想像して、そのスイッチをオンにし、耳に飛び込んでくる台詞を記録する」という、それだけのこと。

大事なのは、自分で「スイッチをオンにする」ということ。その瞬間、音の洪水の中から「記録すべき言葉を拾い出す」作業がはじまる。通勤電車、待ち合わせのカフェ、上映前の映画館……特別ではない場所で交わされる会話の中にドラマはある。「この台詞面白い」と思ったら、なぜ面白いのかと考え、その感想も一緒にテープレコーダーにおさめる。これは、コピーライターとして「時代の空気を読むアンテナを張る」練習だったが、シナリオを書く上で、今とても役に立っている。最近では「頭の中にビデオレコーダー」法にバージョンアップして、その場の状況も一緒に記録し、同時にそれをシナリオの形に置き換えたりしている。

たとえば、今日、近所のファミレスで遭遇した出来事。

○ ファミリーレストラン・店内

       遅めのランチを取る客で、混みあっている。
       食事を終え、本を読んでいる今井。
       右隣のテーブルで向き合う中年カップルの会話に、
       本から顔を上げる。
中年男「問題は電話だ」
中年女「ガスは?」
中年男「しまった。ガスもだ。電気は何とかなるが、ビックカメ
    ラも間に合わねえ」
今井「(何の相談なのだろう?)」
       と、見る。
       かき氷をせわしなくつつきながら、相談を続ける
       カップル。
中年女「早く手を打たないとダメよ」
中年男「とにかく、電話しよう」
       と携帯電話をプッシュし、耳に当てる。
       目線は本に落としつつ、耳を二人の会話に集中さ
       せる今井。
中年男「(電話に)もしもしー? 今日、引越してきた者で、そ
    ちらに来てもらうことになってるんですが、今、事故で
    電車が止まってまして」
       中年カップルの向かいのテーブルに、ドリンクを
       運んでくるウェイトレス。
ウェイトレス「お待たせしました。アイスティーです」
今井「(電車にドリンク来ちゃったよ)」
       と中年男の反応を見るが、男、動じる気配なし。
中年男「(かまわず続けて)まだ着いてないんです。住所はです
    ね、くっそー、住所がわかんねえや。あ、今、トンネル
    に入りますので切れます」
       とあわてて切る。
今井「(あっけに取られて見ている)」
       と、今井の左隣のテーブルから、
男の声「事故で止まってるのに、トンネル入らないよな」
       今井、声のほうを見る。
       一人で食事しているスーツ姿のサラリーマンの独
       り言。

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07月27日(水)
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