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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ SLに乗ったり地震に遭ったり
鉄道と映画を愛するご近所仲間のT氏より「日帰り旅行」の提案。ほいほいと手を挙げ、「どこに何を食べに行くんですか」と聞くと、「ひたすら鉄道に乗ります」と渡された計画表には集合時間から解散時間までに乗る6本の列車の乗り継ぎ表。乗り換え時間以外は列車に揺られ続ける旅なのだった。「今日は年に一度の只見デーなんです」と言うT氏の恒例行事につきあって、お目当ての記念列車「SL会津只見号」をメインディッシュに前菜からデザートまで鉄道尽くしのコース。
まずは9:22上野発上越新幹線とき349号に92分揺られて新潟県浦佐駅へ。駅弁とおつまみとお酒を買って上越線下り普通で2駅先の小出駅に到着(距離8.3km 所要時間9分)。乗り換えで40分ほど時間があいたので駅周辺を散歩し、小出駅から46.8km先の只見駅までは80分かけてディーゼル車で行く。ボックス座席ではないので、横一列に並んで、紅葉のはじまりかけた山をおかずに駅弁とお酒を楽しむ。
入広瀬駅で停車したとき、「あの人いつも立っているんだよなあ」とT氏が窓の外を見て言う。「山菜共和国」の看板を掲げた駅舎前にたたずむ男性。委託駅員さんではないかとのこと。列車が動きだした瞬間、その人が車両に向かって頭を下げた。じーんとなる光景だった。大白川駅でタブレット交換。タブレットとは、単線の列車の衝突を防ぐための通行手形のようなもの。
只見駅に着くと、レトロなチョコレート色のSL車両がお待ちかね。朝9:07に会津若松を出て12:30に只見に着いた下りの会津只見号が、今度は会津若松に向かって折り返す。下り列車から乗り込み、酒盛りしていたT氏の鉄道仲間(通は片道だけでなく往復するのだ)と車内で合流。すでに皆さん酔っ払っていい感じ。「サボ(=サイドボード。行き先表示)と一緒に記念撮影だ!」「スカッ(=煙の出が悪いこと。逆は爆煙)だなあ」などとディープな鉄道用語が飛び交う。機関車の蒸気が窓につくと「曇った」と歓声を上げ、「煙が巻いてる」と言ってはしゃぎ、煙が目にしみては泣きながら喜び、灰が飛び込んだお酒を「シンダー(灰)入りだあ」とありがたがって飲む。合間には鉄道ファン掲示板の書き込みを携帯でチェック。こんな世界があるのか、とカルチャーショックだけど、実に面白い。
鉄道ファンと一口に言っても「撮り鉄」「乗り鉄」「模型鉄」など様々。乗り鉄のT氏に巻き込まれたわたしは、しいてジャンル分けするなら「食べ鉄」。停車駅には地元自慢のきのこ汁や粟まんじゅうの販売があり、食べ歩きならぬ食べ乗りを楽しめる。道連れの酒、地元の銘酒吉乃川もすっきり飲みやすくて気に入る。会津柳津駅では、白いスーツに「一日駅長」の襷をかけた柳津町長がホームでお見送り。只見号は地元の人たちに支えられて走っている。
ところで、この只見号には「支社長」と呼ばれる紳士夫妻が同乗していた。大宮駅からわたしたちと同じルートだったのだが、気づいて教えてくれたT氏によると、只見号企画を実現させたJR東日本の元・仙台支社長さんらしい。真岡鉄道に二台ある機関車の一台を借りて記念列車を走らせるという発想には反対の声もあったそうだが、それを乗り越えた情熱の人で、鉄道ファンの間では「神様」と呼ぶ声もあるのだとか。そのカリスマ性はJR関係者の間にも浸透しているようで、只見駅のホームでは「いらっしゃった」「どこ?」「一号車」という駅職員たちの興奮した声が飛び交っていた。一往復の記念列車にもドラマがある。
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10月23日(土)
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