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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「80代はあの世とこの世に股をかけている感覚」の高田氏
朝起きて、今日はこの世かあの世かと確かめるところから一日が始まる、と話されていた高田氏。階下から奥様に朝食の支度ができたと告げられ、今行くと二階から返事をしたけれど、そのまま姿を表さなかったらしいと余後先生が知らせてくれた。「80代はあの世とこの世に股をかけている感覚」なのだと話されていたが、重心の位置をすっとずらすように、あの世側へ移動してしまったのだろう。
高田氏に会うと、いつも奥様の話になった。愛の反対は無関心のルールをあてはめると、留守の間も奥様が気になってしょうがない高田氏は、愛妻家だったことになる。その奥様と最後にいつもの何気ない会話を交わせたことも、微笑ましく思える。
出会った頃から「そう長くはないでしょうから」と飄々と語っておられた高田氏。そうは言いつつ長生きされる気もしていたけれど、来るべき日は来てしまった。わたしは、まだまだ高田氏のように、死を身近に受け入れる心境にはなれないけれど、老いるという境地について、実に具体的で生々しい感覚をたくさん教えてもらった。
高田氏は、わたしの作品を「迷い人救出作戦的物語」と呼んでくれた。便箋何枚にもわたって、戦争を繰り返してはならないという想いを綴ってくれた。あと数年早く生まれていたら戦争に取られ、あと数年遅く生まれていたら戦争を知らなかった自分たちの世代こそが戦争を語り継ぐべきだ、と語っていた。いつか今井雅子作品に取り入れてもらえたらという願いを受け止めつつも、いまだ戦争に真正面から取り組めてはいない。でも、わたしが書くとしたら、戦争が終わった頃に青春が始まり、高度成長とともに戦争が遠い過去になって行く日本を憂う、高田氏のような人のことかもしれない。
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01月07日(月)
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