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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 「第2回万葉LOVERSのつどい」でますます万葉ラブ!
「今日は皆さんに脚本が生まれる瞬間に立ち会っていただこうと思うんです」と上野先生が切り出し、「天の海」の歌を読み上げ、「天が海なら雲は波 雲が波なら月は舟 その舟が漕ぎ出すのが星の林に隠れて見える」といった意味を解説。「これを詠んだのは男だと思いますか? 女だと思いますか?」と中村アナ、杉本キャスター、わたし、ついで会場の皆さんに質問。男派と女派がほぼ半々。続いて、中村アナと杉本キャスターに「この歌の場面を即興で演じてください」と上野先生。星空を見上げるカップルをたじたじと照れながら演じはじめたお二人、決め台詞が出ず、会話が終わらない。「その舟に乗せて私をどこへ連れて行ってくれるの?」と上野先生が助け舟。
「では、プロの今井さんならどんなドラマを考えますか」と上野先生に振られ、わたしが披露したのはこんな話。
つきあって10年になるのになかなかプロポーズが聞けない美穂子ちゃん(愛称ホコちゃん)が彼氏の阿久津君に宝探しの歌を贈った。この歌の中に宝のありかが……だけどなかなかわかってくれない阿久津君。じれったくなったホコちゃん、「頭の5文字をつなげてみて!」。答えは「アクツホコ」。ホコちゃんがアクツ君のお嫁さんになるのが宝だってこと。さらに「アクツホコ」を並べ替えると、「アホコツク(アホ小突く)」。鈍感な阿久津君にかわいく肘鉄食らわせたホコちゃんに阿久津君はついにプロポーズしてハッピーエンド。
「プロポーズの舟が星に隠れて見えない」というじれったさが歌に込められていたことを言い忘れたけれど、会場からは拍手を頂戴できたので、ほっとひと安心。ちなみにひらがなで書き起こすと、
あめのうみに
くものなみたち
つきのふね
ほしのはやしに
こぎかくるみゆ
打ち上げの席で放送部長の武中千里氏に「在原業平の『かきつばた』の折り句の逆の発想ですね」と指摘されて、それを言い添えておけば教養がにじんだものをと悔しがる。「猫又」という短歌の会で以前「くりひろいを折り句にして一首」というお題があったのに、折り句という言葉もかきつばたもすっかり忘れていた。何気ない会話にさりげなく古典を忍ばせられるような大人になりたい。
第二部は授賞式。上野先生は「景」(景色)と「情」(情感)が描かれていることが選出基準であると話し、井筒和幸監督は大賞の「誰そ彼からの手紙」を絶賛。わたしは脚本作りを料理にたとえ、「このコンクールは万葉集と奈良を使うことと材料が指定されているけれど、万葉集は何千とあり、奈良の見所も何千とある。そのどれとどれを選んで組み合わせ、ストーリーを膨らませるか、そこが料理人の腕の見せどころ」と話した。
その受賞脚本にたくさんの人の手で命が吹き込まれ、さらに重厚な味わいに仕上がっているはず。というわけで、第三部はわたしも初めて観る「ドラマ万葉ラブストーリー夏」の披露上映。昨年以上に見ごたえのある3作品に惹きつけられた。自分の脚本が作品が映像になると、「ここは、こうなったのか」と答え合わせをしながら観てしまう。思った通りのこともあれば、予想を裏切られても期待を上回ることもあり、あれっとなる場合もあるけれど、間違いなく言えるのは、夏の奈良の名演は脚本に描かれている以上だったのではということ。前回の秋の奈良も素晴らしかったけれど、夏には夏の輝きがあり、すでに募集が始まった第3回(>>>募集要項)の春編にも早くも期待が高まる。ぜひ第4回募集で冬編まで作って、万葉ラブの四季を完成させてほしい。
披露上映後、『人込みさがし』に中村太郎役で出演した真鍋拓さん、『花守り』に桜井るり役で出演した中園彩香さんとともに受賞者3名が登壇。ドラマの感想を語り、真鍋さんが劇中でも披露した笙の音色を聞かせてくれた。今回の役のために特訓されたそう。『人込みさがし』を書いた宮埜さんは、ドラマの感激に加え、サプライズで来場したダンナさんのお父さんが涙ぐんでいるのが壇上から見えて、涙、涙。脚本コンクールは数あれど、授賞式と完成披露が一度に行われるものは珍しい。受賞者が一日に味わえる幸福度でいえば、万葉ラブは最強かもしれない。
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09月15日(月)
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