ID:93827
脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
[787474hit]
■ 『絶後の記録』映画化めざして来日
そして今日、東京のわが家にキンガさんと岡田さん、和子さんとお嬢さんが集まった。ダンナ両親と仕事から戻ったダンナも加わり、大人8人と赤ちゃん一人のにぎやかな夕食。映画化については和子さんは「作品が知られるきっかけになるのはうれしいが、顔を見てからでないと」と話されていたが、広島で夜を徹して言葉を交わし、この人ならば、と安心されたよう。小倉氏も写っている戦前からの家族アルバムや疎開先につけていた日記など貴重な資料をどっさり持ち込まれた。キンガさんは熱心にメモを取りながら質問を繰り返し、和子さんのアルバムをビデオに撮り、用意した食事に手をつける暇もない忙しさだった。
「『夕凪の街 桜の国』を広島で観たときも終始ペンを走らせていたんですよ」。そう感心する岡田さんの熱心さにも、圧倒された。「こういう映画がちょうど公開中ですよ」とわたしがタイトルを伝えた作品をキンガさんが来日中に観られるように調べたり都合つけたりされたのだろう。キンガさんの手紙を訳して以来、すでに数十冊の原爆関係の本を読まれたのだという。「黙祷しながら聞いた8時15分の鐘の音は忘れられないものになりそうです」「平和公園を歩いたのは二度目ですが、小倉先生の言われた『広島ではどこを歩いても遺骨の上を歩いている』の言葉を思うと、そこは一度目とは違った場所のようでした」と仰る言葉にも重みと深みが感じられた。
岡田さんとわたしが補いあいながら通訳を務めたのだけど、岡田さんの語彙の豊かさ、訳の的確さにも感心した。わたしの英語はずいぶんさびついていて、日本語にしたら数語のことがまわりくどい表現になってしまった。「大空襲」「疎開」などという使い慣れない言葉にたじたじとなっていると、察しのいいキンガさんが「Fire attack?」「Evacuate?」と汲み取ってくれた。「被爆者って何て言うんでしょう?」と岡田さんに聞いたら、「Hibakusya?」。「ヒバクシャ」はそのままで通じてしまうんだ、と複雑な気持ちになった。
これからキンガさんが脚本を書き上げ、出資者を募っていく。実現する目処が立つまではまだ遠い道のりだし、どんな規模で作れるのか、予想もつかない。「原作に忠実でありたい」とキンガさんは繰り返していた。当時の模様を再現するには莫大な予算が必要となるが、原作を尊重する気持ちがあれば、原作に込められた思いは映像に刻まれると思う。手紙からイメージした通りの、真っ直ぐさとしなやかさ、たくましさとかわいらしさを持ち合わせた愛すべき人、キンガさん。異国での孤独に耐えて映画製作者になる夢をかなえた彼女なら、どんなに道は険しくても、惚れ込んだ原作を映画化してしまうのではないか。わたしも、岡田さんに続いて彼女の熱意に巻き込まれた一人として、応援していきたいと思う。
「紙の墓」と題した小倉豊文氏の詩がある。「亡き妻に」と副題があり、妻にあてた手紙を本にした気持ちが綴られている。ノーモアヒロシマズの祈りが出版に駆り立てたのだが、印税を受け取ることに葛藤した。悩んだ末、印税をみんなに使ってもらおうと決心がついた……と語りかける長い詩は、
お前のお墓を建てるのも
しばらくみんなおあづけだ
本をお墓と思つてくれ
地上の
つめたい一つの一つの墓石より
も無方にちらばる
無数の紙の墓の方が
お前もやつぱりいいだらう
第一、
軽くていいだらう
と結ばれている。この「紙の墓」を広めることが、映画化への後押しになればと願う。『絶後の記録―広島原子爆弾の手記』は最初の刊行から半世紀余りを経た2001年8月に中公文庫BIBLIO20世紀から改版が出ている。
08月13日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る