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脚本家・今井雅子の日記
by いまいまさこ
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■ 三島由紀夫レター教室
最終章の「作者から読者への手紙」は、著者のあとがきである。手紙の第一要件は「あて名をまちがいなく書くこと」と三島由紀夫は記す。それをまちがえることは「ていねいな言葉を千言並べても、帳消し」にし、「文中に並べられたおびただしい誠意を、ニセモノと判断させるに十分」となる。最近はコピー&ペーストであて名だけ差し替えた手紙がふえたけれど、わたしのところにも別人あての取材や仕事の依頼が来る。五箇所あるうちの四箇所はわたしの名前になっていて一箇所だけ別の人の名前が残っていたりすると、「先にこの人に話を持って行って断られたんだなあ」という事情が透けて見えて白ける。「手紙を書くときには、相手はまったくこちらに関心がない、という前提で書きはじめなければいけません」と力説する著者は、「他人は決して他人に深い関心を持ちえない、もし持ちえるとすれば自分の利害にからんだ時だけだ」という哲学を披露し、「手紙の受け取り人が受け取った手紙を重要視する理由は、一、大金 二、名誉 三、性欲 四、感情」と断言する。この第四の手紙はいちばん難度が高く、「言葉だけで他人の感情を動かそうというのには、なみなみならぬ情熱か、あるいは、なみなみならぬ文章技術がいるのです」とある。

メールも含めて、わたしは手紙をよく書くほうだと思うし、今書いている日記も不特定多数の人に向けた手紙と言える。手紙という乗り物に正しい分量の情熱を乗せて正しい方向へ発信できているだろうか、と自問する。脚本だって、出資者や出演者に訴えかけ、最終的に観客に届けられる手紙という見方ができるかもしれない。もうかりますよ、えらくなれますよ、もてますよ、でない限り、心をゆさぶる脚本でなければ相手にしてもらえないということだ。

02月21日(水)
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