ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
[1051905hit]

■ 経済美学入門
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20060217
 
 ◆ 与太郎の経済学
 
 かつて、ある年代までは、大工の日当は材料費に等しく計算できた。
 一本1万円の材木を仕入れて、これを加工して完成するまでの工賃を
1万円と概算する。腕次第なので、一日で完成すれば日当1万円である。
 
 腕が悪かったり、未熟だと二日かかるから、日当は5千円となる。
 その結果、どんな仕上がりでも客の払いは合計2万円になる。
 この概算法は(最近では)日当>材料費となって久しい。
 
 このような計算を、デザイナーに適用すると、妙なことになる。
 材料費は、わずかな絵具と紙切れだから、説得力にとぼしいのだ。
 下手な画家と同じで、描かないままのカンバスの方が値が高い。
 
 ◆ 秘書の給料
 
 法廷映画《或る殺人》では、貧乏弁護士が調査の途中や裁判の最中に、
秘書にむかって「キミはクビだ」などとという。
 すると、年増の秘書(未亡人?)は、平然とやりかえす。
 
「いいわよ、いままでの給料を払ってくれればね」
 彼女は、なんだかんだ云いながらも、この弁護士に惚れているらしい。
(いつか口説いてくれる日を待っているのだろうか)
 
 この映画を観たのは、与太郎二十一才のころ(19600130)である。
 与太郎は、この秘書が何ヶ月も払ってもらえないことに疑問を抱かず、
雇い主もまた払わずにいることにも、さほど不自然だとは思わなかった。
 
 ところが、二十八才になった与太郎は、複数の店員に給料を払うこと
が苦しくなってみて、はじめて現実に直面したのである。
 とても、このような雇用関係は成立しない(三月もたない)のだ。
 
 給料がおくれおくれになっても、続くような雇用関係では、いかなる
条件が必要か。すくなくとも秘書は、わかい頃の貯金か、亡夫の遺産か、
親ゆずりの資産を切りくずしているのだろう。弁護士はスッカンピンだ。
 

♀Arden,Eve   19070430 America 19901120 83 /《牛乳屋》19901112没?
 Stewart,James 19080520 America 19970702 89 /《翼よ、あれがパリの灯だ》
♀Remick,Lee  19351214 America 19910702 55 /《酒とバラの日々》

── Stewart,James《Anatomy of a Murder“ある殺人”1959 America》
http://www.articles.dvdbeaver.com/film/post/Anatomy%20of%20a%20Murder%201959.jpg
 
 ◆ はだかの請求書
 
 キャバレー時代に、つぎのような出演料の納品書を見ている。
「朱雀 さぎり(ヌード)、@7500円、数量(3回)、小計22500円」
 ちなみに当時の高卒初任給が7500円、与太郎は月給15000円だった。
 
 商店主だったころの与太郎は、売りあげた商品の請求書を書くことに、
まったく抵抗がなかった。「商品にはストーリーがある」などという説
をとなえて、独自の伝票システムを開発したほどだ。
 
 ただしデザイナーとしては、みずからデザインした作品に値をつけ、
納品書を出すという行為が、とても気恥ずかしかったのだ。
 このような不調和な感覚が、実に四十才すぎてもつづく。
 
 有賀のゆりさんの(最初の)チェンバロ・リサイタルが終ったあと、
関係者あての礼状「ご挨拶」を受けとった。この礼状にいたるまでも、
与太郎のデザインだから、たんなる儀礼として受けとったのである。
 
 そのまま車のダッシュボードに投げこんでいたが(なにかの拍子に)
発見して驚いた。まさか現金がしのばせてあるとは思わなかった。
 すぐに「お礼」に伺うと、のゆりさん母娘は笑って応対された。
 
 与太郎にとっても帰郷後の初仕事だったが、その後も数年間ほとんど
友人知人からの依頼や紹介だったので、値段を決めたり、領収書とひき
かえに金を受けとるのには、いつまでも抵抗があった。
 
 かなり経ってからも、そのまま言いそびれていたら、半年のちに現金
書留が送られてきたこともある。依頼主にすれば、印刷屋に支払ったの
で一件落着だと思っていたらしい。
 

[5]続きを読む

02月17日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る