ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ Do! series
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19800916
 
 邦字の姿
 
 どんな書体にも、作図の基本ルールがあります。フリーハンドで描か
れる前衛書道の文字も、筆おろしから一気に墨を運ぶ呼吸が基本になっ
て、その時間的な経過が織りこまれています。
 すべてのもじは、もとの素材が毛筆であるか、硬筆であるか、あるい
は彫刻であるかによってスタイルが制約されます。近代印刷が大量に再
生産するために、各種のスタイルを活かしながら、共通したものに向っ
て変化してきたことは事実です。
 たとえば、明朝体の漢字は刻印するためのデザインですが、仮名は元
来毛筆で描かれたものでした。厳密には、《明朝体の仮名》というもの
は存在せず、明朝体漢字にふさわしい仮名書体にすぎません。現代の邦
字では、漢字と仮名のシェアが逆転してしまったので、むしろ平仮名に
ふさわしい幹事のスタイルを主役とすべきかもしれません(その例とし
てこの小冊子は、楷書体を改良した《教科書体》を採用しています)。
 私たちが、すでに見なれてしまっているので違和感がなくなった、も
うひとつの例は、ローマ字・アラビア数字との組みあわせです。
 ローマ字の主役は、モダン・ローマン書体で、明朝体にもっとも似つ
かわしいスタイルです。石に刻むためのオールド・ローマン体を印刷用
に改良したもので、たぶんアラビア数字もこれに似せて併合されたので
しょう。
 こうしてみると、現代邦字として、私たちが日常見なれている書体の
なかでは、平仮名と片仮名だけが、異質の原点をもっていることに気づ
きます。
 そこで、仮名そのものを、明朝体あるいはローマン体のように改良す
る試みが、何度もくりかえされてきたわけです。石や木に刻むようなス
タイルにすれば、全体の統一感は向上するはずです。桑山さんの《タイ
ポス》は、あきらかにこの着眼に立っています。しかしすぐに歓迎され
る、というわけにはいかなかったのです。多くの人は、かえって異質な
印象を抱きました。
 
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 表記体系
 
 書体を考える上で、もうひとつの問題点は可読性・一覧性・慣用度の
他に、日本語表記という観点です。
 漢字カナまじり文、あるいは多種類の文字書体が混在し、併用される
という現状では、むしろそれぞれの異質な感触を残しておいたほうが、
読みやすく理解しやすい、という人も多いのです。
 ローマ字を使う国々では、たとえばロシア語やドイツ語などをタイプ
で打つために特殊な文字を整理し、いわば国際化に向っています。世界
的な傾向として大文字と小文字の区別もなくなりつつあり──実際にな
くなるかどうかは別として、日常の手書き文ではアメリカ人の多くが、
ブロック・スタイルと称する大文字だけの表記を好んでいます。
 注意してみると、日本でも、ボールペンの普及が原因か、直線だけで
書く人たちが増えているようです。かつては悪筆とされたこの手法は、
読みにくい達筆よりも読みやすさ、書きやすさの点で、むしろ有利なの
です。
 そして、その極限にあるものは、幾何学的な書体スタイルなのです。
 コンパスと定規だけで描く、というルールは決して新奇な試みではあ
りません。しかしローマ字の歴史が示すように、幾何学的な線だけでは
実用化せず、さまざまの装飾的工夫と例外的なルールが、わずか26〜52
種の文字にも必要だったのです。
 コンパスと定規だけで描かれたロゴタイプや指定書体は、限られた内
容だけを想定すればよいのですが、《Do!シリーズ》では、現代邦字
の表記体系として、6種類の異なる文字に共通の互換性を与える最初の
試みです。
 その結果、共通のルールをおしすすめて、コンピューターに作図させ
ることが可能になりました。高価な資材を用いる場合、共通のエレメン
トをパーツと考えれば、無駄な余白スペースを最小限にとどめることも
できます。
 従来のコンピューター文字やデジタル文字がもっとも単純な直線で設

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09月16日(火)
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