ID:87518
与太郎文庫
by 与太郎
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■ 真白な論文 〜 恩師の条件 〜
 
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19570318
 
 真白な論文                上田 堅一郎
 
 大学にまだ私が学んでいた頃、心を割っていろんなことを話し合って
いた友人が二人いた。H君、W君、今は三人とも散り散りになってH君
は学習院大学に、W君は広島大学にそれぞれ勤めているが時々近況を報
告し合っているのだが、当時は何かと言えばお互いの家に三人で語り明
かしたものだった。二人ともなかなかの秀才だったが特にH君は高校時
代から私と同級で常に私より上位に位して私の頭の上がらない人物だっ
た。
 大学卒業の折、お互の前途を祝してH君の家に集まったことがあった。
大学時代の思い出、各教授の批評、将来のことなど勝手な放言をして気
焔を挙げた。その時H君が突然「俺は真白な論文を書くつもりだ」と言
い出した。私にはこの言葉が今でも忘れられないでいる。
 大学の図書室に入ると毎年各国の学者によって発表される論文が年毎
に製本してぎっしり詰められている。学生は教授の指導によってそれら
の論文の中重要なものを選んで読み、また自分が研究発表する際には関
連した論文を探して読むのである。従って有名な論文、例えばアインシ
ュタインの相対性原理とか、湯川教授の中間子理論とかは誰もが読むか
らその頁が手垢で汚れて黒くなっている反面無名の学者の書いた余り重
要でない論文は真白なまゝで残っているのである。
 彼がいった真白な論文というのは実はこの誰にも読まれない論文とい
う意味なのである。然も彼がこの言葉を吐いたのは心の底に自分の学問
的な能力に対する十分な自信があっての上である。自分が真白な論文し
か書けないというのではなく、所謂有名な論文にしてもそれが一朝一夕
に生れたものでなく、またその人の能力のみによって生れたものでなく、
実に数多くの真白な論文の積み重なりの上に生れるべくして生れたもの
であるという事実を彼がはっきり認識して、自分が今後学問的活動に入
ってゆく際の決心を披瀝したものなのである。

 この話はいつかチャペルで皆さんに披露したようにも思うのだが、私
自身いろんない実で励まし慰めを与えられている言葉でもあるので諸君
の卒業に敢てもう一度諸君にこの言葉をお贈りしたいと思った次第であ
る。
 
── 《卒業記念誌 19570316 同志社高校三年F組》P06-07
 
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 書いたるぞ! 〜 君らの司級 〜      上野 務
 
 君らは呼んで「カスミ」という。この名は小生は頗る好かぬ、おのれ
を「ぬばたま」と呼ばれて、さして腹の立った覚えもないが、他人事な
がら「カスミ」という名はいゝニック・ネームではない。「カスミ」は
文法的に申せば動詞「カスム」の連用形であるが、今「カスンでいる」
といえば、ろくな状態をいわない。わが敬愛する上田堅一郎君は、けし
てさような存在ではない。従って「カスミ」なる名は、小生は頂きかね
るのである。
 
 ×  ×  ×  ×  
 
 「あだな」といえば、ケンちゃんにかつて「大文字」という名がつい
たことがあった。真疑の程は知らぬが、独身時代に、うら若き女性と大
文字に登った所を、生徒諸君に見つけられてその名が生れたという。残
念乍ら、この名は続かず。今は「カスミ」となって今日に及んでいる。
知らぬ人のため一言紹介す。
 
 そのうら若き女性が、今の令夫人であったか否かは知らねども、昭和
廿七年節分の吉日を選んで、ケンちゃんは新しい人生のスタートを切っ
た。その日のタコちゃん(石村先生)のスピーチに曰く、
 「元来、私は囲碁において、残念乍ら新郎に数目おかざるを得ない程
度の実力でございます。然るに、昨夏の頃から、次第に私は、新郎に少
しづつながら勝つようになりました。私は、おのれの実力も大分ついて
来たぞと内心ほゝえんだのでございますが、豈はからんや、その頃から
新郎は新婦に対して……」このあとは適当な語句を補い給え。
 

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03月18日(月)
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