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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 師走
う感じ、考えるしかなくなったし、このようにしか書けなくなった(あ
るいはまったく書くことがなくなった)、と。そしてしばしば、私はこ
う感じる、とかこう考える、とかいうことが、それ自体としては存在し
ない、などということだけが書かれたりする。そしてそのことが、時代
の変容に適応できない私たちの「うすめられたルサンチマン」の表現に
なっていたりもするのである。
── 《図書 200301‥ 岩波書店》P28-32
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ルサンチマン [仏 ressentiment ] もともと恨みや憎しみが心の中
にこもって鬱屈した状態をいう言葉だが,ニーチェはこれを弱い者への
思いやりや自己犠牲を説く平等主義的な道徳の起源を説明するために用
いた.彼によればキリスト教道徳や,そこから生まれた近代市民社会の
ヒューマニズムや人権の思想は,弱者の強者に対する恨みや復讐心を道
徳として表した奴隷の道徳なのである.この延長上にある社会主義の思
想も,このような奴隷道徳の一部にほかならないと考えられる.ニーチ
ェはこれに対して強者の道徳,貴族的な誇りや勇気を讃える戦士の道徳,
君主の道徳を対置した(ニーチェ『道徳の系譜』).しかしこれは結局
ファシズムによって利用される結果にもなった.
── 思想の科学研究会《新版哲学・論理用語辞典》
♂ 瀬尾 育生(せお・いくお)詩人 19481116 名古屋
■2002/12/30 (月) 匿名性
与太郎は、《虚々日々・解題》の結び(20001210)に「いずれ匿名の
ホームページにでも連載するかもしれない」と書いているように、この
《与太郎文庫》は、いくぶん匿名性を意識している。
その匿名性は、中学時代の同級生なら、すぐに「アイツだ!」と特定
できるが、知らない人には「この男は何者だろうか」と興味をもたれる
ことが望ましい。
かくて、中年以後に知りあった人が読めば、与太郎を思いうかべると
はかぎらない。近所の人や親戚の者もまたしかり、家族ならどうか。
歴史的に有名な例をあげると、晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチは、
左右を逆に書いた“鏡文字”の手記を残しているが、これには匿名性や
秘密性はなく、安易に一瞥されることを拒否したのであろう。あるいは、
のちの研究者の気を引くための演出だったかもしれない。
高名な音楽家にとっては、後世におよんで《音楽ノート》《会話帳》
《ベートーヴェンの手紙》などが出版されることは、承知の上である。
死後“不滅の恋人”あての書簡が発見されたものの、投函された恋文の
下書きなのか、未投函のまま残されたのか、わからないという。
無名の画家が弟に宛てた書簡集《ゴッホの手紙》は、仕送りの催促が
主題であって、まさか弟の新妻が、ていねいに整理保存することなど、
当人は(弟も)予想しなかったであろう。
義妹の真意が、借用証書のかわりにファイルしたのなら、その目的は
見事に果されている。これに着目したジャーナリストが公開しなければ、
無名の“炎の人”の《自画像》ごときが、何十億もの高額で取引される
ことはなかったのである。
もちろん弟の孫まで、オランダ国立ゴッホ美術館長などという“公職”
にありつくことはなかったのである。
がんらい秘匿されるべき日記は、公開を前提とするホームページとは
縁がないように思われるが、実はそうではない。実体のある日記帳は、
家の中のどこに匿したとしても、いつか誰かに発見される可能性がある。
とくに不道徳な趣味嗜好ではなくとも、いますぐ余人に評価されたく
ないような哲学的論考も、あり得るのである。
(2051214)
12月26日(木)
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