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与太郎文庫
by 与太郎
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■ やはり野に置け 〜 玉と王の対話 〜
皇陛下が即位に際し、「皆さんとともに日本国憲法を守り……」と述べ
られたことも記憶に残る。
 
 ◇    ◇    ◇    ◇
 
 同じ意味で、皇室が美智子皇后に続いて雅子妃を民間から迎えたこと
は、大きなできごとだった。君が代に2番はなくとも、いわば皇室が2
番の精神をもってきたと言えまいか。
 
 だが、果たしてこの延長で天皇制は安泰だといえるのか。いささか疑
問に思えてきたのは、言うまでもなく、かねての「お世継ぎ」問題に加
え、雅子妃の体調不良と、皇太子殿下の「人格否定」発言がきっかけだ。
 
 国民に祝福されてプリンセスとなった元キャリア外交官が、皇室のし
きたりや世継ぎ問題に悩み、生きがいだった外国訪問の機会も奪われて、
健康すぐれぬ日々である。それを必死にかばう皇太子殿下……そんな悲
劇と愛情のストーリーが、世の関心を集めないはずはない。週刊誌は毎
号のように競って「内幕」を報じている。
 
 正確な事実はよく分からないが、確かなのは現代社会における皇室の
存在がいかに難しいかということだろう。君が代が生まれた時代とは、
社会が全く違ってしまっている。
 
 例えば、戦前は皇位を継承できる皇族の範囲がずっと広かったし、大
正天皇のように皇后以外の女性を母とする天皇もいた。男系の男子継承
による「万世一系」を可能にした仕組みである。いまでは考えられない
ことだ。
 
 一方、これほど自由な社会も、高度情報化時代の到来も、君が代がで
きたころには想像もできなかったろう。
 
 皇族はいつもカメラの放列にさらされ、メディアの関心事だ。スター
の有名税に似てはいるが、喜怒哀楽をぶつける自由はない。それどころ
か、言論、宗教から住居や仕事まで、国民が享受する自由をほとんども
たないのだ。とくに民間から入った身には、このギャップがどれだけこ
たえることか。
 
 伝統の重みをもつ皇室は、世俗と隔たりをもたなければならない。そ
んな声も分かるが、この時代、果たしてそれだけで皇族方が楽しく、幸
せを感じて生きられるだろうか。
 
 少なくとも欧州の国々の王室のように、もっとオープンで人間らしい
生き方が許されなければ、皇室はどこかで行き詰まる。女帝を認めてお
世継ぎ問題をしのいでも、婿さまのなり手は簡単に出てこまい。
 
 君が代は千代に八千代に……と続くには、一体どうすればよいのか。
国歌の歌わせ方などよりも、その方がよほど大事な国の課題だろう。 
 
── 若宮 啓文《風考計 20040627 》
http://www.asahi.com/column/wakamiya/TKY200406270117.html

10月29日(金)
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