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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 落第生は二度眠る 〜 清水 睦夫先生講義録 〜
 ここに至って、ようやく愚かな生徒にも、先生の趣向に気づく。
 はたして先生は、四度はおろか、十数回くりかえされたのである。
 かくて、ラスプーチンが一言も語らないまま、ベルが鳴りひびく。
 
 このような趣向を、なーんだと思う者に災いあれ。
 真似して、どこかで演ってみようと思う者は、失敗する。
 生れてはじめて聞いた者だけが、なるほどと納得できるのだ。
 
 幸運にも、与太郎は、このような名講義を二度も堪能したのだ。
 
 ◆ 夜汽車の女
 
 ときに、めずらしく雑談がはじまることもある。
「わかいころ、ぼくは用があって、旅行することになった」
 なんだ世間話か、とガリ勉どもが気を抜く。
 
「ひとりで汽車に乗って、野こえ山こえ、トンネルを越えた」
 なんだ、むかしばなしか、と悪ガキどもが姿勢をくずす。
「夕闇がせまるころ、わかい女が一人で乗ってきた」
 
 ぼんやり聞いていた愚か者が、やや座りなおす。
 あんまり期待していないが、聞きのがせない状況展開なのだ。
「この汽車には、ぼくと彼女しか乗っていない。二人きりだ」
 
 女生徒まで聞き耳をたてはじめ、はやくも生唾を飲む男生徒がいる。
「しばらくすると、とつぜん彼女が苦しみはじめた」
 誰も気がつかないが、すでに授業時間は、ほぼ終りに近づいている。
 
「どうしたんですか、と彼女を抱きかかえた」
 みんな、シーンと息をのんでしまった。
「彼女は、苦しがるばかりで、返事をしない」
 
「ぼくは、どうして黙っているのですか、返事をしなさい、と叫んだ」
「それでも彼女は、歯を食いしばったまま答えない」
「ぼくは、思いきって彼女の口を、両手でこじあけた」
 
「すると、彼女の口がポッカリ空いた。見ると歯がない!」
 生徒一同「えっ」と思うまもなく、先生の話に、みごと落ちがつく。
「歯がない、というハナシ」先生はさっそうと教室を去ったのである。
 
 ◆ カリスマ演出家久世光彦さん登場
 
 50過ぎたら(死亡記事は)自分でも書ける。これでは淋しいから、
二行くらいはつけ加えたい。いま死んだら、これくらい書きのこしたい。
── 《爆笑問題のススメ 20051206(火)00:30〜01:00 西日本放送》
 
…… 森繁さん自身の述懐によると、英語への拒否反応は、七十数年前
の<北野中学>の英語の教師のせいだという。ネチネチした性格の教師
で、一度も森繁さんに及第点をくれなかったらしい。そういう教師はも
う一人いて、これは<日本史>の担当だった。授業をまるで聴かなかっ
た。それが証拠に、いまも森繁さんは<応仁の乱>についてほとんど何
も知らない。
── 久世 光彦《森繁 久弥の大遺言書 20040701 週刊新潮》P068
 

 森繁 久彌  俳優 19130504 大阪 東京 20091110 96 /〜《夫婦善哉/知床旅情》
 久世 光彦  演出 19350419 東京   20060302 70 /〜《寺内貫太郎一家 TBS》
http://heike.cocolog-nifty.com/kanwa/2017/02/post-1a1f.html
 清水 睦夫 世界史 1928‥‥ 滋賀   20170128 89 /同志社高校教諭
https://booklog.jp/users/awalibrary?keyword=%E6%B8%85%E6%B0%B4%20%E7%9D%A6%E5%A4%AB&display=front
https://www.doshisha.ac.jp/information/public/doshishajihou/backnumber/jihou019.html

 
(20221120)

11月12日(土)
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