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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 逆立ち芸者 〜 花街入門 〜
や商売上大切にする場合は、先の座敷を抜けだして来る。自分の座敷に
いた芸妓のひとりが消えたら、事情を察してやればよい。自分の本命が
消えた場合は、自分が本命でなかったことが証明される。
花街(かがい)入門
お茶屋あそびについて、与太郎はくわしいわけではないが、せっかく
見聞した世界だから、あらまし書きとめておく。
はじめて茶屋にあがった客は、芸者のだれとも初対面である。これを
“初会”という。客が複数で、芸者も数人呼ばれることもあるが、ここ
で気に入った芸者が居れば、客は数日を待たずして茶屋にあらわれる。
そして女将が「どの妓をよびましょうか」とたずねるのに、すんなり
名前を答えるようだと話がはやい。客が照れて、もぞもぞ言うようなら、
女将が気をきかせて、図星で呼ぶこともある。
二度目の逢瀬を“裏をかえす”という。女将や芸者の都合からいうと、
翌日すぐに、というのは野暮にしても、数日を置かず、早ければはやい
ほど熱心さが伝わるのである。かげで“ご執心”と言われることもある。
そうは言っても、すべての客が初心者ではないので、なかには紹介者
の顔を立てて義理で“裏をかえす”こともある。
三度目にあらわれて、客のほうから「例の妓を呼んでくれ」といえば、
これはもう“お馴染み”である。ここにいたれば、客の甲斐性次第だが、
他の妓を呼ばずに、ようやく二人きりの“差し”で会うことになる。
何度通っても、最後まで“差し”になれない場合は、当の芸者が拒否
しているので、こればかりは客自身が悟らないと、みんなが迷惑する。
顔をみるだけで「ゾゾゲがたつ」などといわれているかもしれない。
(たぶん「鳥肌が立つ、総毛だつ」から転じた、京風の俗語表現)
以上は、女将や年増芸者が初心者に教える手ほどきの序の口である。
色恋ばかりが色街ではない。実態は“気散じ”にあそぶ客も多いし、
容姿がまずくても、馬鹿っ話の受け答えが面白ければ、座敷はつとまる
というものである。
バニーガールは、共通の恋人であるという。
舞妓については、ふつうに幼女セックスの対象とみなす客もあれば、
むすめをからかって遊ぶ粋人も居ないわけではない。与太郎の経験では、
美しい舞妓は極少であり、ほとんどは“化け物”であった。したがって
美しい舞妓に出会っても、なまじ自分のものになるのではないか、など
夢にも考えるべきではない。このクラスの女性が、庶民の所有物になる
わけがないので、いさぎよくファンの座に甘んじるべきである。
そして、もし彼女が、若くして誰かの持ち物になることが公表された
ならば、あるいは引退した場合、ファンの座もおりるべきである。その
後は、町で出会っても気やすく声をかけたりしないことだ。
そんな彼女には、なみなみならぬ事情があるにちがいないのだ。
まちがっても、「いま、どうしているか」などと質問してはならない。
せいぜい「おかぁはん、元気か?」くらいの声をかける。実の母親か、
あるいは置屋の女将か、どちらにもとれるように聞く。
「へぇ、おかげさんで……」と、彼女は答えるにちがいない。
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10月31日(日)
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