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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 戯歌問答 〜 手ぐすね三傑 〜
「あの先生がね、わたしの背中に触ってきたのよ」「なんだって?!」
与太郎は彼女を問いただすよりも、素性の知れない老人の口車に乗せ
られて、ノコノコ出かけたことが心外だった(なにがセンセイか!)
遊蕩や放蕩を非難される者なら、おのずから卑しい世界に通じている。
卑しい行為が恥ずべきことも知っている。誇りたかい女性なら、許され
ざる者を一蹴することを、切望してやまないのである。
たぶん彼女は、決然として博物館を出たにちがいない。老人も無礼を
詫びたにちがいない。それ以上の事態は考えられないものの、与太郎は
その日を最後に、彼女と絶交してしまった(なにが好青年か!)
いま思うに、与太郎は彼女を妹のように、淑女として遇していたのだ。
いかなる事情にせよ、たとえ老人であろうとも、わかい女性がひとりで
訪問するなど許せなかったのだ。どうして一言、相談しなかったのか。
与太郎は、あやめが池の博物館など知らないが、どうやら“その道”
の逸品・珍品が並んでいるそうだ。資産家の息子だった九十九老人が、
戦前から中国大陸にわたって集めたコレクションの数々だという。
与太郎の後日談を、はじめて聞いた中林さんは、付けくわえた。
「九十九さんは、すぐに触るらしいんだよ。気が小さいから、断わられ
るとすぐ引っこめるんだそうだ」(37年前に聞いておくべきだった)
すきあらば だめでもともと 四十八手(あのてこのて)
化人か偉人か 九十九黄人
へのこもねむる 百三っ(草木も眠る丑三つ時)
「そりゃ“モリシゲ”だ」 与太郎は思わず叫んでしまった。
「そう! ダメモトだが、お金持ちだからね、断わらなかった相手には、
いっぱいプレゼントするらしい」森繁久弥の手くせは、有名だ。
ふたりで散々“不良老年”を茶化したあとで、しみじみ語りあう。
「しかし、われわれだってエラそうなことは云えないよ。イザとなれば、
あるいは“スキあらば”その道に通じるかもな」「そうともさ」
きのう、コロンビア・トップの葬儀では、島倉千代子がワイドショー
のマイクに向って(目頭を抑えながら)こう証言していた。
「おっちゃんは、すぐに触るのよ。あたしも随分さわられたの」
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(現況)
この博物館とあやめ池遊園地は、まもなく閉鎖されるという。
往年の情景は、つぎのサイトで活写されている。
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=444102
── 東洋民族博物館《関心空間》
つづく(Day'20040611)Day'20040603<20040605
06月08日(火)
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