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与太郎文庫
by 与太郎
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■ フクちゃんの家 〜 武器よ、さらば 〜
 下村 彦右衛門 3    17‥‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /
 下村 正太郎  4    17‥‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /彦右衛門“大丸騒動”により改名
 下村 正太郎  5    17‥‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /
 下村 正太郎  6“正立”1775‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /妻貞は泉州の富豪唐金家の女、正立22歳の寛政9年入嫁
 下村 正太郎  7“正篤”1802‥‥ 京都 山城 18620127 60 /享和2-文久1.1228 [1812-]/名は兼啓/春坡(兼邦)の子
 下村 正太郎  8    18‥‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /
 下村 正太郎  9“正乗”18‥‥‥ 京都 山城 18‥‥‥ ? /
 下村 正太郎 10“正堂”1853‥‥ 京都 山城 1889‥‥ 37 /籍=兼篤=正乗の次男/東京為替会社総頭取/嘉永 6.
 下村 正太郎 11“正剛”1884‥‥ 京都   19440106 62 /合資会社・株式会社“大丸”に改組/大丸会長
 下村 正太郎 12    19271120 京都   20070513 79 /府立一中、大阪大学経済学部卒 1951 三菱銀行入社。
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 下村 福 “フクちゃん”1923‥‥ 京都   19990205 76 /同志社高校国語教諭 正太郎12の弟?/早稲田大学卆

 
 母屋と庇
 
「これは、迷うてしもたな」と云いながら、フクちゃんが倒れこんだ。
「センセ、大丈夫かいな」三人の生徒が、フクちゃんをのぞきこむ。
「大丈夫や。ズボンが破れただけや」フクちゃんが起きあがる。
 こんなとき、与太郎はつい冗談めかして云ってしまう。
「ケガは放っといても治るけど、ズボンは元にもどらへん」
 夕闇の山中散策を了えて、ようやくフクちゃんの自宅にたどりついた
一行は、風呂と食事でもてなされた。
 この三人は、同期生ではあるが同級生ではない。フクちゃんにとって
立石義雄と宮田昌洪は担任の生徒で、宮田と与太郎は文芸部員である。
 また、宮田と立石は排球部(バレー・ボール)の部員でもある。
 さらに(当時の名簿をみると)立石は、聖歌隊(ホザナ・コーラス)
に在籍、与太郎も(中堀先生の懇請によるゲスト)メンバーだった。
 このとき、与太郎の父の店にライカの中古品があると聞いて、すぐに
フクちゃんは興味を示した。当時十万円もの高級カメラである。小商人
の倅は、教師の給料も知っているが、向こうは大商人の御曹子である。
「センセ、お金どないするの?」「ナニ、兄貴が出してくれるやろ」
 そばで聞いていた宮田は、のちに大学に進んでまもなく、写真展《The
Family of Men》を観たあと、突然カメラマンになりたいと言いだした。
彼もまた小商人の倅だったが、その父に無理矢理ライカを買わせている。
下村先生や、与太郎の中学生新聞部での活躍ぶりが投影されたらしい。
 フクちゃんと立石の、偶然的な共通点は、意外なところにあった。
 立石義雄の父は(創業以前の苦労話によれば)、デパートの一隅で、
実演販売のようなことまでしている。
 すでにして立石電機は、かなりの成長企業になっていたらしく、もと
大丸の軒先を借りていたという創業者の御曹司(三男)は、その母屋の
御曹司(二男)に、声をひそめて、こんなことをささやいた。
「こんど、×××と合併するかもしれへん」
「へえー、ほんまか?」
 一介の高校教師ではあるが、もとをただせば由緒ただしい商人の血が
さわぐと見えて、フクちゃんは思わず身をのりだす。
「ほんなら、出資比率はどうなる?」
[ウチが、51パーセントらしい」
「えらいこっちゃ、社名はどうなるんや?」
「それは、たぶん……」(この話は、成立には至らなかったらしい)
 母屋と庇の、こんなやりとりを(株に熱心な)母が聞いたら仰天する
だろう、と与太郎は思った。
 母の故郷で、株屋に勤めているという遠縁の者が、とつぜん電話をか
けてきたという。「トーツー」という聞いたこともない会社の株を、今
すぐ買うようにすすめたが、当時のことで長距離電話は聞こえにくい。
「なんや、なんの会社やて?」母は笑ってとりあわなかった。

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02月05日(金)
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