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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 無人警察(2)
る『発作のとき、身体のけいれん、意識喪失などの症状が現れる病気』
というのは、てんかん発作の一都分にすぎない」としている。
「教科書として使用した場合、そこにいるてんかんをもつ高校生や、近
親者にてんかんをもつ人がいる高校生は、どのような思いで授業に臨ま
ねばならないことになるのか」考えてほしい。
先ず、この声明文に回答する前に、「無人警察」の作品としての位置
づけを明確にしておく必要があります。と、申しますのは、この作品は
言うまでもなく、文学作品であり、小説としての主題をきちんと把握し
てはじめて批判が成立すると考えるからであります。「無人警察」は一
読してわかりますように、近未来を描いたSF小説です。交通違反の取り
締まりの手段として、速度検査機、アルコール摂取量探知機、脳波測定
機などで人間を類別し、支配統制しようとする社会を好意的に見ていた
主人公が、ある日突然反逆せざるをえない状況まで追い詰められてしま
う過程を描いた作品です。管理統制された未来を讃える作品ではありま
せん。人間がロボットに潜在意識まで探られてしまう結末から、文明と
は何か、人間のアイデンティティーとは何かを問い掛けている作品です。
このような読み取りに立脚して、初めててんかん云々の論議ができるの
です。
さて、1 の「てんかんは取り締まりの対象としてのみ扱われ、医学や
福祉の対象としてはまったく考えられていない」と言うのは、交通違反
の取り締まりの対象としてはまさにその通りと言わざるをえません。
「てんかんをおこすおそれのある者が運転していると…」の前後を読め
ばわかるように、「四つ辻まで来て…」(本文29頁12行)〜 …発作を
おこす前に収容されるのである。」(本文30頁6行)までの段は、自動
車の交通違反の取り締まりの様子を描いた文章であり、その中にはスピ
ード違反、飲酒運転の取り締まりも含まれているのです。現代の日本に
おいて、その是非はともかく、てんかんは運転免許の欠格事由(道路交
通法第88条1項2号)となっています。そして、この近未来小説において
もその設定を使っています。輝かしい未来であれば、てんかんに限らず、
病気そのものを克服すべきはずですが、残念ながらこの小説で描かれて
いる未来社会は、取り締まりに重点を置く社会であります。
また、この交通違反取り締まりの段に、医学や福祉の問題を書き込め
るものではありません。医学・福祉の側面から、てんかんについて啓蒙
し、発言していく必要は充分認めますが、ここはその場ではないと考え
ます。小説が壊れ、文学作品としての体をなしえないからです。
2 の「てんかんが悪者扱いされている」との発言は、まったく読解の
不十分さから生じた誤読と言わざるをえません。教科書の原文は次のよ
うになっています。
でも、わたしはてんかんではないはずだし、もちろん酒も飲んでいな
い。何も悪いことをした覚えもないのだ。(青色は角川書店)
ところが、声明文の傍線の部分は、「何も悪いことはした覚えもない」
となっています。教科書の原文を読むかぎり、「てんかん」と「酒を飲
むこと」と「悪いことをすること」とは並列の関係にあり、「悪いこと
をすること」は「てんかん」「酒を飲むこと」を受けてはいません。す
なわち、「悪いこと」がてんかんを指していないことは明白です。にも
かかわらず、「てんかんが悪者扱いされている」と主張される姿勢は、
理解できません。
3 については、たとえ日本てんかん協会の運動を理解したとしても、
ここはSF小説の読み取りの場であって、てんかんをもつ人の自動車運転
免許取得の是非を論議する場ではないと考え、コメントは控えます。
4 について。脳波検査によっては、てんかんかどうかわからない、と
いう主張ですが、現在においても脳波検査はてんかんの診断の有力な手
段として用いられている以上、本文の記述は誤りとは言えないと考えま
す。また、本文脚注の説明が「てんかん発作の一部分にすぎない」との
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08月05日(木)
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