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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 生没年月日について 〜 増補第五版のまえに 〜
 やがて一葉は《大つもごり》や《にごりえ》で名声とみに増すかたわ
ら、病勢も日々にすすみます。彼女の死を伝えきいた藤村は、一ヶ月ま
えに母の死で仙台から帰京し、その遺骨を抱いて郷里・長野に葬らうな
ど、あまりに身辺多忙でした。
 流星のように消えた才媛と、抒情詩から自然主義小説の頂点に立った
後年の巨匠は、ほとんど語りあうことなく、すれちがいました。二人の
生れた明治五年は、旧暦最後の年で十二月四日から、大晦日までの日数
が省略されています。一葉の生涯は、さらに短命だったのです。
 
 誕生日に死んだ画家
 
 二十二才の画家ラファエロ(14830406〜15200406)がフィレンツェに
あらわれた1504年、二十九才のミケランジェロ(14750306〜15640218)
は、巨大な《ダビデ像》を制作中であり、五十二才のレオナルド・ダ・
ビンチ(14520415〜15190502)も《モナ・リザ》に着手しています。ま
るで、父と兄と弟のような年代の三人が、この大都会で一堂に会する機
会があったとすれば、この年から五年のあいだでした。
 激しい身ぶりで歩くミケランジェロの大きな声、あるいは馬車に乗っ
て通りすぎるダ・ビンチの後姿に、しばしばラファエロが立ちどまった
ことが想像されます。
 ミケランジェロは、ダ・ビンチに対しては、さながら長男が父に対す
るように、直接的な影響を受けていませんが、ラファエロは次男のよう
に父と兄を模倣し、おだやかに同化しています。この三人を語ることは、
ルネサンス美術の古典様式を、そのまま論じることになります。
 六十七才のダ・ビンチが、膨大な手記と未完の作品を残して没した翌
年、ラファエロは三十七才の誕生日に夭逝しています(0328の異説もあ
ります)。三人の中でもっとも天才的で、知的で裕福に成長した美貌の
画家は、すでにその使命を終えていたとも評されます。
 その後ミケランジェロは、メディチ家の壮麗な墓碑群に取りくみます
が、構想雄大すぎて完成できません。彼の死から十八年後、晩年のシー
ザーが制定した、ユリウス暦が廃され、現行のグレゴリオ暦に変ります
──ルネサンスの閉幕です。
 
 ヒロインの死
 
 ヴィヴィアン・リー(19131105〜19670708)と、ロバート・テイラー
(19110805〜19690608)が共演した映画《哀愁》は、戦火の恋と現実の
イメージが交叉して、観客の胸に生きつづけています。
「平和な時なら、自己紹介が先だが」といって青年大尉は、つかのまの
デートで姓も年令も問いません。しかし翌日に婚約、結婚の承認を得る
ためには、大佐や伯父に、彼女の素姓を明らかにしなければなりません。
「マイラ、大事な事を忘れていた。出生地は?」「バーミンガム」「い
つ?」「18950609」「父上は?」「校長」「両親健在?」「いいえ」
「あと何だっけ、君の姓は?」「いやだ、レスターよ」「すぐ戻る」
 はたして伯父公爵は、反問します。「レスター家? 貴族か」「いえ、
家族はいません「何をしとる娘だ、ダンサー? わしも若いころ結婚し
たいと思ったが断わられた。してれば君の伯母。俗にいう、まともな結
婚がいいとは限らん、幸せを祈る」── (字幕・     訳)。
 あいつぐ急転直下の展開は、甘いメロドラマを予想した観客たちの心
を混乱させ、初老になったクローニン大佐の回想で幕を閉じます。その
日は、19390903(イギリスがドイツに宣戦布告)──ヒロインが生きて
いれば四十四才、という設定です。
 現実の大女優は、当時二十七才で、すでに六才の娘をかかえて離婚争
議中、空前の大作《風と共に去りぬ》では映画史上かつてない栄光の座
にありました。そして再婚、病の中で《欲望という名の電車》で再起し
たあと、ふたたび離婚、ロンドンのアパートで、ひとり五十四才の生涯
を終っています。
 
 銀幕に魅せられた人たち
 
 ── 寅にだって教育を受ける権利がある(略)さくらは、寅が入学
願書を出していたことを知った。その書類が大写しになると、おどけ気
味の寅の写真が貼ってあって、生年月日の欄に、昭和十五年十一月二十

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04月26日(日)
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