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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 書いた!稼いだ!倒れた!
がある。われながら今もってバカバカしい。
梶山 われわれは、こうして死んじゃったけど、架空の人物は死ぬと
どこへ行っちゃうのかな。
柴田 さっぱりわからん。
梶山 眠狂四郎が、作者の枕元に立って話しかけるっていうシーンが
ありましたよね。
柴田 あれは、苦しまぎれにデタラメを書いたんだ。
梶山 冥土で再会して、ともにドボンを楽しむなんてのはどうかな。
柴田 狂四郎は、実はまだ死んどらんのだ。いっぺん死なせたんだが
〈週刊新潮〉が、どうしても生きかえらせろっていうもんで、ムリヤリ
息を吹きかえすことになった。もういっぺん死なせても誰も信用しない
だろうから、そのままだ。俺のほうが先にくたばったから、狂四郎は生
きっぱなしだ。
梶山 作者も、自分が死んだら主人公の運命はかくあるべし、という
遺言をすべきかな。
柴田 君は、早くから遺言を用意しとったらしいな。
梶山 メキシコ旅行の前に、女房と娘に書いたんです。パパはスケベ
人間とかエロ作家などと呼ばれているが、本意ではない。別にライフ・
ワークの準備もしてるんだ”という意味のね。
柴田 最初の喀血の頃か?
梶山 そうです。厄年だったし、ペンクラブのゴタゴタがあったりし
て気が滅入ってたんですね。その年の暮に伊豆で百五十坪借りて百姓を
はじめたんです。
柴田 大宅壮一氏が亡くなったのは、その前だったか?
梶山 二年前の一九七〇年ですね。大宅文庫も開館したので、私の責
任編集という形で《月刊・噂》を出すことにしたんです。
柴田 あれは、なんで廃めたんだ?
梶山 三年ちかく続いたし、表むきは石油危機のため休刊、というこ
となんです。
柴田 赤字はたいしたことなかったんだろ?
梶山 偉い人には高い金を出さない、という方針でしたから。スケベ
作家がスキャンダル雑誌を出した、というんで、当初は政財界の購読申
しこみが多かった。警視庁でも毎号ていねいに読んでくれたらしい。
柴田 むしろ君のイメージチェンジが奏功したわけだな。
梶山 亡くなられた伊藤整さんと約束していたんです。伊藤先生が、
ある時「梶山君、太宰治というのは包茎だったんだよ。きみ知ってるか」
というんですよ。なるほど太宰は弘前高校時代に自殺を何回もやったり
して、これは皮かぶりが原因じゃないかなと思ったときに、太宰の小説
は全部わかった。
柴田 伊藤さんは、太宰のを見たことがあるのかな
梶山 こういう話は、編集者しか知らないんです。だから、編集者を
大切にしなければいけない。
柴田 帝国ホテルで《梶さんを囲む編集者の会》をやったものな。
梶山 活字にならなかったお話の雑誌、というのが《噂》のキャッチ
フレーズでして、武者小路じゃないけれども、新しき編集者村をやろう
っていう気持があった。
柴田 大宅ノンフィクションにつづく、梶山クラブってとこかな。
梶山 たとえば、柴田錬三郎に対する編集者の評価というものは、あ
んなにとっつきにくい作家はなくて、口も利いてくれん、というわけで
す。
柴田 そうか。
梶山 ところが事実は逆だ。おれたちがドボンやってる時に来てみろ、
あんなガキみたいに単純な男はいないって教えてやる。
柴田 む……。
梶山 それとか、女の編集者だとガラリと態度が変るはずだ。
柴田 そんなことはない。
梶山 そういう噂の虚実を、時効を待って封印をとく。いますぐ引っ
ぱがす、というわけではないんです。
柴田 それは、誰にも都合ってものがあるからな。
■どっちが強い? 一刀斎と狂四郎
梶山 先生の場合、剣豪作家という、たぶん不本意なレッテルがある
わけですが、五味康祐さんの一刀斎や連也斎との本質的な相違点は、の
ちのちまで議論されるでしょうね。早いはなしが狂四郎は黒の着流しで、
金髪であり、相当なオシャレだ。それにくらべると一刀斎は、質実剛健
でムサくるしい。
柴田 作家の分身だからな。
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11月04日(土)
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