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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 華ときものと私 〜 池坊家の人々 〜
この時には、日本人に生れてよかった、きものがあってよかった、と
思います。私どものプロポーションは、とても外国
の万には及びません。十代廿代の方はずいぶんよくなった、といわれま
すけどそれでも外国の方のスタイルのよさにはやはりヒケをとってしま
います。その点きものは、私たちの体型にぴったり添ってくれるんです。
「きみは着物が似合うよ」
ついこの前、家元がそういってくれました。女って、ほめられると嬉
しいものですから「あらそうかしら」つていうと「スタイルが悪いから
ね」なんて申します。
きものが洋服とちがう点は、外国ではかならず宝石を必要といたしま
す。洋服と宝石は、切っても切れない組みあわせなんです。
私たちのきものは、永い歴史をもっておりますけれども、宝石という
ものにはあまり関心がないみたいですね。そこですばらしいネックレス
をした外国婦人に
「どこでお求めになりましたの?」
なんて野次馬根性たっぷりに質問いたしますと、ほとんどの方が、何代
も前の、おばあちゃまに戴いたものとか、お母さまが結婚されたときに
買ったものとか、娘から娘に、代々うけつかれてきた例が多いのに驚き
ます。
■ ヨーロッパの家庭
外務省の派遣とか、流派の仕事などで外国の各地を旅する機会がござ
いまして、こういう点は見ならっておきたい、とか日本の良いところは、
ぜひこのまま守り育てていきたい、というようなことに、たくさん出会
います。
ドイツで、ある家庭に招かれました時、そのお宅の男の子が、ほんと
に可愛いいホットパンツをはいて、とてもよく似合っておりましたので、
「いま、こんなのが流行してるの?どこのデパートで買ったの?」
と尋ねますと、男の子は得意になって、「これは、おじいちゃんの戴き
ものなんだよ、お父さんもはいて、それからボクの物になった」ってい
うんです。
ドイツは、質実剛健の国なんていわれますけど、ちょっぴりケチなの
かな、と内心思ったりしました。そしたら、そのお母さまが、
「どうして、びっくりするの? ドイツでは当りまえのことなんですよ。
おむつだって、母親が赤ちゃんを育ておえるときれいに消毒して、アイ
ロンかけて戸棚へしまっておく、娘が大きくなって結婚して赤ちゃんを
産むときに戸棚から出すんですよ」
さいきんは貨おむつなんて、いかにも合理的なように私たち錯覚して
いますね。必要に応じて、そういうものを利用する場合は別ですけど。
■ 白いベール
パリでも、同じような例は、たくさんありました。向うでは、食事の
時には、いろんなナプキンやテーブルクロスを用います。
「すてきなレースね」
私が思ったことをすぐ口にいたしますと、「これは、わが家の宝です」
これも代々伝えられてきたレースだったわけで、こういうものは戸棚に
しまっておくんじゃなくて、毎日たのしんで使いながら、いかに上手に
きれいに使って、次の世代に手わたすか、というのが主婦の条件なんで
す。
ですから、娘が結婚するからといって、花嫁さんのかぶる白いベール
をデパートへ買いに行く、というようなことも少ないわけです。いかに
古く、その家代々に伝わったベールであるかが、花嫁さんの自慢なんで
す。
ほんとに必要なものは、たとえ無理をしてでも求めて、次の世代に渡
せるものかどうかを、まず考えるようですね。
■ 豊かな合理化
日本ほど、いろんな物が豊富に出まわっている国はないようです。で
すけど、いろんな役割りを果たす物がそろってるということではないん
です。
二年前に買った魔法瓶の蓋が、すこしゆるんできて、胴体はまだ使え
るから、蓋だけ直したいと思ってデパートへ行きますと『これは、旧い
製品ですから新しく買いかえた方が、お安いですよ』
五年前に買った電子レンジがこわれてしまったので電気屋さんに頼む
と、
『この会社では、もう この型のものは作っていません。部品だけとり
よせて直しても、新しいのを買うのと同じくらいかかりますよ』
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02月17日(金)
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