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与太郎文庫
by 与太郎
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■ PRAD《印刷入門》 序説:紙を汚した技術史
字の出現以後のことです。スクリプトでは文字単位としての活字になり
ません。のちの技術では、ごく間単につなげるデザインが生れています
が、初期の段階では不可能であり、不適当な書体でした。日本語の場合
でも、漢字はともかくとして、平仮名を活字化するにはかなりの無理が
感じられます。
 
 大量伝達の文字
 
 セリフの復活は、ラインを統一してhやnを明確に区別したり、全体
的な字づらを揃えるという実用面での効果が再評価されたためのようで
す。日本の明朝活字も、その影響を受けているように思われます。
 一方では、活字印刷のための書体として、サンセリフ(セリフなしの
書体)が脚光を浴びることになります。
 英米で呼ばれるゴシック体は、これとちがったドイツ風のもので、ど
ちらかといえば葦ペンのスタイルに近いものです。
 
 
 オールド・ローマン      ABcDE
 
 モダン・ローマン       abcDE
 
 スクリプト          Abcde
 
 ゴシック           ABcde
 
 サンセリフ(日本ではゴシック)AbCDE
 
 イタリック(斜体)      ABcDE
 
 
 以上が基本的な英字スタイルですが大量印刷・大量伝達が可能になる
とともに。多くの活字デザイナーが工夫をこらして、無数の書体を開発
します。
 合理性を重んじて、可読性の限界に挑戦するもの、装飾性を加えて絵
画的な表現を織りこんだものなど、最近ではコンピューターに読ませる
文字なども登場しています。
 こうした人工的な文字は、もはや書いたり刻んだりする時代の面影は
なくなり。いわば作られた、描かれるべき文字と呼ぶべきでしょう。し
たがって、文字の歴史を大別すると、次の三種があげられます。
1.CUT(刻む時代)
2.WRITE(書く時代)
3.DRAW(描く・作字の時代)
 これまでの内容をまとめてみますと下の表ができあがります。印刷技
術のもっとも重要な使命が、文字の伝達であり微妙にオーバーラップし
ながら両者が歩みつづけていることも明らかです。
 

   印刷方式 印刷の名称 主な機能  文字表現  用具と媒体
────────────────────────────────
    物理的 活版・凸版 記録・伝達 CUT   超硬筆(刃物など)で
 過去     組版/孔版             石・木を刻む
    化学的 オフセット 大量伝達  WRITE 軟筆(毛筆ペン)で
                          紙にスクリプト
 現在 光学的 平版・凹版 平面的再現 DRAW  製図用具で描く
    磁気的 ゼロックス (写真伝達)視聴覚素材 音声・映像を電波送信・再生
 未来    電波・テープ 同時伝達 コンピュータ 硬筆(ボールペンなど)

 
 
 
 私説:昭和の三筆
 
 わが国における文字についての関心がどれほど高いものであったかと
いうと、平安初期の三筆として嵯峨天皇、空海、橘逸勢にはじまる各時
代、世尊寺流とか寛永の三筆、黄檗、幕末に至るまで名筆家というもの
が、きわめて高い評価のもとに伝えられているほどです。
 欧米では名文家はあっても、名筆家という呼称はないようです。むし
ろ、職業的な活字デザイナーとして署名のない人たちの業績に注目すべ
きものがあります。
 中国や日本では、毛筆を自在にあやつって格調の高い文書をしたため
ることが教養人としての必要条件であり、悪筆を恥じる習慣があります。
 欧米のインテリたちは、サインだけは後世に残るものとして熱心な練
習の成果を見せてくれますが、日常のメモについてはほとんどブロック
スタイルという一種の金釘流で満足しています。
 私たちが、現代日本の、昭和の三筆を選ぶとすれば、どんな人たちが
ふさわしいでしょうか。
 いわゆる達筆という点では、数年前自決した作家に故三島由紀夫があ

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02月01日(水)
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