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与太郎文庫
by 与太郎
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■ 読後の感想を語る会 〜 壷井 栄 〜
  ょう。その方が自然だし、そういう所に作者の善意があると思います。
司会 母のない子≠フ人たちはどうですか。
内村 史郎が縁日で、だまされて、お母さんの病気の直し方を書いた本
  を買ってくるところがありましたがあそこにも、ほほえましい愛情
  が感じられます。
高島 あの村の人はみんな善意に生きていますね。おとらおばさんは夫
  にも一人息子にも死なれてほんとに一人ぽちなのに、少しも暗い影
  がない。そこに一つの人間の生き方があるのね。おとらおばさんが
  面倒を見ている一郎が史郎の家の麦刈りを手伝って、疲れてしまっ
  てその晩「お寝小」するところなんかも、おとらおばさんほんとに
  心があたたまるような応対をするのよ。不幸な一郎をみんなが善意
  ではげまし合って生きているのね。
内村 一郎のお父さんが復員してきたとき、一郎が前に住んでいた熊谷
  のことを思い出して話すとお父さんは「古い事は考えないで前方を
  見つめて生きて行こう」といヽますね。あれなど……。
高島 最後は特によかったわね。
木村 一郎のお父さんは大学を出ているし、英語の先生までした人だけ
  れど、復員してから職がないので史郎の家へ日雇いにゆきます。な
  れない労働のために肩の皮がすりむけたりけれどもそこに生きる喜
  びを見出しています。
阿波 村の人たちがみんな善人であったということ。ここにこの作品の
  ウソがあると思うんです。あの頃の人達、子供達にしても実際はも
  っとすさんだ汚い心があった筈です。戦争から来る貧しさ、そして
  腹のへった子供達、終戦直後小さな子どもまでも盗みをしたり、い
  ろんな悪いことをしたのです。それがこの作品の表≠ノはない。
  作者がさけていると思うのです。
高島 きれいに書いてあるわけね。でもこれが作者の全力あげて抗議し
  ていることじゃないの。小豆島が平和な田舎のようにかかれてある。
  それ自体が私達に魅力を与えるものね。そしてこのきれいな平和な
  生活の中に、不幸が起っていヽんだろうかということを作者は訴え
  たかったと自分で云ってるんです。そして貧しさということはかな
  りとりあげていますよ。
阿波 僕の云うのはね、去年の暮に僕達の学校が貧しい友の救済運動
  をやりましたね。そうしたことからも、当時どれだけ貧しくて、ど
  んなにみんあの心がすさんでいたか判るんです。文学的にどうとい
  うのではなくて、少なくとも、僕達はこの作品の裏にあるものを頭
  のどこかでつかんでいるべきだと思うんです。
高島 私ももの足りないと思ったところはもっと深く掘りさげたらと思
  ったの。でもこの作者は、この形で人の心に問いかけているんですね。
 
  親と子の愛情の問題つづる短編集柿の木のある家
 
高島 柿の木のある家≠読んだのは木村さんと遠藤さんだけね。
木村 ともしび≠ヘ子供がよその家へもらわれてゆく話ですけどそこ
  のお母さんがその子供に愛情がもてなくて初めは可愛がらなかった
  のですが、だんだん二人が打ちとけて、お父さんが脚気になったと
  きお父さんが「子供が悪いからだ」と云うとお母さん子供を抱きし
  めてしまうところ、とても胸をうたれました。
高島 お母さんが子供との接触(ふれあうこと)で愛情を教えられると
  いう話ね。
木村 今まで愛される喜び≠ヘ知っていても愛する喜び≠知らな
  かったお母さんがそういったものにだんだん目覚めてゆくのですね。
高島 私はお父さんとお母さんの心の動きが面白いと思いました。それ
  が大人の世界なのかも知れませんね。子供対母、そして父と母の問
  題があるわけね。
司会 そろそろ時間になりましたのでこの辺で終りたいと思います。な
  にぶん最初の試みでもあったのでうまく運ばなかったと思いますが、
  今後もこの様な会をもちつづけてゆきたいと思います。ごくろうさ
  までした。               (一月二十二日)


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03月16日(水)
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