ID:81711
エキスパートモード
by 梶林(Kajilin)
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■メイド喫茶ノスタルジア
ベロ祈りが通じたのか運良くアキバ子ちゃんが注文取りに来てくれた。いきなり聞いてしまおうか。しかしRちゃんの消息を探りに来た怪しい者と警戒されるかもしれない。いや、その通りなんだけれども怪しくはないんだよ!おいらあやしいもんじゃないよ。おいらベロってんだ。アキバ子ちゃんがニコニコしながら待っている姿を眺めながら、しばし考えたが

「ええと、唐揚げとビール」

和民にでも行けよ、といった感じの品を頼むに留まってしまった。とてもシラフじゃ聞けない…と弱腰になってしまったのである。やはり自分でも怪しいと思うよ。何でビール飲みにわざわざメイド喫茶に来てんだよ。自分で自分を埋めてやりたい。周りを見渡しても、ひとり客は僕だけで、皆2人以上のグループである。いくらツワモノのオタクが集まるメイド喫茶といえど、さすがに単独で来るのは勇気がいるのだろう。ますます肩身が狭くなり、ビールを飲むペースが上がる。

「すいません、ビール」

ゾックアキバ子ちゃんに2杯目を頼んで飲んでいると、徐々に気分がほぐれて来た頃、隣の席にひとり客が入って来た。緑色の変なジャンパーを着た、ずんぐりむっくりのゾックみたいな体型の男。彼はFOMA携帯のレスポンスのようなモッサリした動きで歩き、席に付き、途中で貰ったと思われる他のメイド喫茶のチラシを眺めていた。よかった、僕以上に痛い人が来た。

「すいません、唐揚げとビール」

すっかり出来上がってしまって3杯目のビールを飲み、ビールうめえ唐揚げうめえ、うわゾック男ケーキ食ってるきめえ、とゴキゲンになっていたら他の客がチラチラこちらを伺っている視線とぶつかった。顔が相当ニヤついていたようだ。

ハート様あ、僕も痛い客だと思われている。うわー視線が痛い。痛えよー痛えよー血だ血だ痛えよー。しかし僕はRちゃんとの思い出に浸りに来たのだ。Rちゃん、君の為ならひでぶ。それでも痛いと思う者は勝手に思え。笑いたいと思う者は勝手に笑え。遠からん者は音にも聞け。近くば寄って屁を食らえ。

あははメイド喫茶で飲むってのも乙なもんだね。赤提灯はないけど、ちょうちんブルマとか誰かコスプレしてくれないかな、アキバ子ちゃんとか…とますますやぶれかぶれになったところで笑顔のアキバ子ちゃんが

「ラストオーダーとさせていただきますが、よろしいでしょうか」

とお伺いを立てて来たのでハッとなった。

アキバのメイド喫茶でひとりビールを流し込む僕は一体何者なのだろう、と我に返った。

おおそうじゃ。Rちゃんのことを聞かなければならないのだ。チャンスは今しかないと決意し、遂に聞いてみた。

「あの、前ここにいたRちゃんって覚えてます?」

「は?誰ですかそれ」

サッと営業用の笑顔が消え、冷たい真顔と素の言葉遣いの返事が突き刺さった。あ、そうか。本名じゃなくメイド名で言わなきゃ、と思い出した。メイド喫茶で働く女の子は、源氏名というかメイド名で通しているのである。本名でやってる人はあまりいないのではないだろうか。

「ここでは○○ちゃん、って名前だったんですけど」

「あーはいはい。覚えてますよ。あ、○○ちゃんのお友達ですか?」

「ええ。彼女がいた頃は何回か来たことがあるんです」

ようやく話が通じた。

「ご主人様はRちゃんと結構会うことあるんですか?」

「…はい」

思いっきり嘘を付いてしまった。

「私は彼女が辞めてから全然やりとりとかなくって…」

「はあ。全然、ですか…」

これで望みは絶たれた。時々この店に顔を出してる、とか、時々メールしてるんですよ、とか何らかのやりとりがある、ということだけでも聞ければ嬉しかったのだが…。

「たまには遊びに来てねって伝えといて下さい!」


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04月07日(土)
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