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Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review @ Tokyo
by Niseko-Rossy Pi-Pikoe
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■『ヌートピア宣言Mind Games/ジョン・レノン』・CDジャーナル:レーベル研究『ECMレーベル』2003年6月号
 hyde(ラルク・アン・シェル)のシングルを聴きながら、その耽美性にデヴィッド・シルヴィアンを連想し、そのシルヴィアンの作品に参加する「釣りびとが緩やかに凍死してゆくかのような演奏」と形容されるスティーヴ・ティベッツの恍惚ECMサウンドまでを耳の手ほどきしてしまう不良中年である、私は。
 ECMはジャズのレーベルでもあり、古楽や現代音楽のレーベルでもある。4ビートのノリや熱いサックスに魅了されるジャズ・ファンからは否定され、録音に対しては「これはこの世のピアノの音ではない」とその虚構性を問題にされ、ジョン・ケージやヘルムート・ラッヘンマンまでを「美しく」録音してしまうことにクラシック・ファンからも口を歪められてしまうレーベルでもある。
★マンフレット・アイヒャー
 創立者はマンフレット・アイヒャーというコントラバス奏者としてジャズでもクラシックでもそれなりに腕の立つ、グラモフォンでの録音技師の経験もある青年。1943年ドイツの南部の町リンダウに生まれ、6才でヴァイオリンを手にし、14才でコントラバスに転向。クラシックの音楽大学を出るが、関心はクール・ジャズから前衛ジャズに向かい、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』、スコット・ラファロのビル・エヴァンス・トリオ、アルバート・アイラー『スピリチュアル・ユニティ』に耳を焦がされていた。彼はライブ三昧に明け暮れる中で、自分の音楽的素養と録音技術で「今日的」な音楽をドキュメントすべく自らのレーベルをECM(Edition of Contemporary Music)と名付け、1969年に立ち上げた。
北欧の4人(ヤン・ガルバレク、テリエ・リピダル、アリルド・アンデルセン、ヨン・クリステンセン)、フュージョン・ブームの口火を切ったチック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエバー』、キース・ジャレット、チック・コリア、ポール・ブレイらのピアノ・ソロでの録音、これらが評判を得た。多くの新しいミュージシャンに焦点をあて、とりわけギタリストの登用(パット・メセニー、ジョン・アバークロンビー、ラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチなど)が光った。専属ミュージシャンによるソロや様々な組み合わせによる小さなユニットでのアコースティックな表現を制作することで(名作多し)、強烈なECMのレーベル・イメージを確立した。同じくギターに重きを置きながら、ECMは電化サウンドを排除した(ベースが象徴的だろう)、クラシックの視点に軸足を置いた、もうひとつの“フュージョン”を試みていたと理解できる。
84年にはクラシックに流通させるための“ECM NEW SERIES”をアルヴォ・ぺルト『タブラ・ラサ』のリリースで開始し、広範な音楽ファンの支持を得ることに成功した。このニュー・シリーズはその後シュニトケ、カンチェリ、クルターク、ブライアーズといった作曲家を取り上げつつ、ハイナー・ゲッベルスの舞台音楽やエレニ・カラインドルーの映画音楽、ジャン=リュック・ゴダールのサントラなどもリリースしている。
ジャズとクラシックの素養を持つアイヒャーは、その耳の経歴を青年期から幼年期へ遡行するかのようである。
★アイヒャー帝国の迷宮
ECMは創立してから34年、カタログは900を超えようとしている。各国のジャズやクラシックの権威ある音楽賞はすべからく手にしている。と同時に、ほとんど無名でありながら聴く者を美に痺れさせる隠しキャラ的名盤も多数存在する。“the most beautiful sound next to silence” この「沈黙に次いで最も美しい音」をサブ・テーマとするこのレーベルの統一感は、アイヒャーの「君たちは意のままに演奏して良い。だが服従せよ。」と言わんばかりの徹底さによる。作品にはそこにもうひとりのミュージシャンが参加していると評され、”produced by Manfred Eicher”のクレジットはもはや伝説化して語られている。
しかし問題はこの「美しさ」だ。ツェランやカフカ、ヘルダーリンを引用した解説文やアートワークを含めたドイツ人らしい徹底した仕事には、まさにヨーロッパの、ゲルマン民族のガイストを感じるが、醒めた知性に潜んで狂気に反転するような美しさが問題なのだ。見る者の内面に痕跡を残すかのようなジャケットやインナースリーブの選択もアイヒャーによるものだ。

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01月15日(木)
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