ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「へんじがない ただのしかばねのようだ」に詰め込まれた「珠玉のメッセージ」
『ゲームデザイン脳 ―桝田省治の発想とワザ―』(桝田省治著・技術評論社)より。

【「へんじがない ただのしかばねのようだ」
 かのドラクエで、迷宮の奥などに横たわった白骨死体をチェックした場合に表示される汎用メッセージである。僕は、数あるゲームの中でこれよりよくできた文を読んだことがない。珠玉だと思う。
 書いたのは、同作のゲームデザイナー兼シナリオライターである堀井雄二氏。残念ながら僕ではない。
 本節は、このメッセージにいかにたくさんの情報が集積されているか、その解説だ。これを読めば、僕が冒頭のメッセージを”珠玉”と評した理由がわかってもらえるはずだ。ま、わかったところで、そう簡単にマネできないけどね。

(1)基本情報
 まず、このメッセージの基本情報は、「あなたは目の前の白骨死体と思しきものを確かにチェックしましたが、有用な情報も目ぼしいアイテムも見つけられませんでした」ということだ。
 ここには、ふたつの重要な情報がある。

・あなたが発した目の前をチェックするというコマンドは確かに受け取ったという返答。
・その結果、有用な情報も目ぼしいアイテムも発見できなかったという報告。

 たとえば、就職試験の合否を連絡しないことで不合格の通知代わりとする企業がある。この場合、合否通知を待つほうは、「もしかしたら郵便の配達に何か不備があったのではないか」など、万にひとつの可能性を考えてしばらく未練たっぷりにモヤモヤする。それが人の常だ。一方で不合格者にも丁寧な通知を送る企業もある。どちらが印象が良いかは言うまでもないだろう。
 同様に、上記の二項目は、プレイヤーの信頼を得ようと思うならば、必ず返さなければならない最低限の情報だ。


(2)キャラ立て
 プレイヤーが操作するキャラクター(主人公)にもさまざまなタイプがあるが、ドラクエの場合、徹底的にしゃべらないのが特徴だ。これは「キャラを立てる」で書いたとおり、プレイヤーが操作する主人公とプレイヤーの感情的な剥離を防ぐため、主人公になるべく色をつけないという方針に則った演出だ。
 だが、実は地味な汎用メッセージを使い、最低限のキャラ立てを行っている。
 前半部分に注目しよう。「へんじがない」ということは、主人公は「もしもし」とか「おい!!」とか、どんな言い方がされたかはプレイヤーの想像に委ねられているが、とにかく声をかけたことがわかる。
 そこからたとえば、剣の先で突ついたり、足で蹴ったりするような乱暴者ではない。いきなり直に手で触れるような軽率な人間ではない。白骨死体にまで声をかけるほどバカ丁寧、あるいはユーモアがあるなど、主人公のさまざまな人物像がプレイヤー各人の頭に浮かぶ。
 ただし、声をかけた理由には言及されていないのだから、結局、主人公の人物像はひとつには限定されない。だが、この場合はそれでいいのだ。大事なことは、プレイヤーにひとつの答を押しつけることではない。プレイヤー各人が自分の主人公に対して独自の解釈ができる材料を与えることだ。


(3)世界観
 次に後半の「ただのしかばねのようだ」に注目しよう。この文から読み取れるのは、たとえばこんな情報だ。

・この世界には、ただの屍ではなくゾンビのようなアクティブな屍もいますから、注意してください。
・この世界では、迷宮に転がった屍はさほど珍しくありません。行き倒れたり、モンスターに襲われて死ぬ人が跡を絶ちません。無茶な冒険は危険です。

と、ゲームの舞台がどんなルールで支配されている世界なのかを示唆している。また、いずれも警告を含んでいるが「注意しろ」とも「危険だ」とも一言も書いてない配慮にも留意してほしい。


(4)行動のヒント
 「(1)基本情報」で就職の合否の連絡を例に引き、ここで伝えているのは不合格通知のようなものだと書いた。ところで、不合格通知が届いた人は、「合格通知をもらった人もどこかにいるんだろうなぁ」と考える。これも人の常だ。

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05月09日(日)
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