ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ」
『ドラえもん学』(横山泰行著・PHP新書)より。

(「第3章 あらすじで読むドラえもん」のなかで紹介されている「のび太の結婚前夜」のあらすじ)

【劇の稽古とも知らずに、しずちゃんと出来杉が演じる白雪姫のラストシーンを目撃したのび太は、顔を真っ赤にして「わ〜っ!! 手なんかにぎっちゃってや〜らしいやらし〜い」と、いつものように嫉妬の炎を激しく燃やす。「それにしても……。まるでほんとみたいだったなあ。このままだと、しずちゃんを出来杉にとられるのではあるまいか」とクヨクヨ考え込むのび太に、ドラえもんはタイムマシンに乗って結婚式を見てくるように勧める。
 ついに重い腰を上げ、未来に向かった二人。結婚式場であるプリンスメロンホテルに到着すると、急ブレーキをかけながら車を乗りつけ、大慌てで駆けこんでいくお婿さんののび太を発見する。受付で式場を尋ねると、返ってきた答えは「野比のび太さまと、源静香さまのお式は、あすの予定になっておりますが……」。一日勘違いしていたのだ。「いくつになってもしょうがないなあ」とドラえもんが嘆くのも無理はない。

(中略。のび太がジャイアン・スネ夫・出来杉に「うらやましいぞ!」などと手荒く祝福されながら、独身生活最後のどんちゃん騒ぎをしている場面が描かれています。)

 一方のしずちゃんはというと、親子三人、お別れパーティをやっていたらしい。ママに促されて、パパに挨拶に向かおうとするしずちゃんの姿を見て、のび太は敏感に「なんか沈んでる。もっとうれしそうにウキウキしなくちゃ」とひとり思う。「結婚の相手がきみだもんね」というドラえもんの冗談が耳に痛い。
 ところが、しずちゃんはパパに二度「おやすみなさい」をいうと、すぐに部屋から出てきてしまった。嫁入り前の娘と父親の微妙なやりとりに、のび太は心配になる。そこでドラえもん、ふつうなら照れくさくて話せないようなことまで、思っていることをなんでもしゃべらずにはいられなくなるひみつ道具「正直電波」を取り出し、しずちゃんに向けた。
 気をとりなおしてパパの部屋に引き返したしずちゃんは開口一番、「パパ! あたし、およめにいくのやめる!!」と爆弾発言。「透明マント」を被ってこっそり見守っていたドラえもんとのび太は驚天動地の表情。「わたしがいっちゃったらパパさびしくなるでしょ。これまでずっと甘えたりわがままいったり……、それなのにわたしのほうは、パパやママになんにもしてあげられなかったわね」としずちゃんは心情を述べるのだった。
 するとパパは、「とんでもない。きみはぼくらにすばらしいおくり物を残していってくれるんだよ。数えきれないほどのね。最初のおくり物はきみがうまれてきてくれたことだ。午前3時ごろだったよ。きみの産声が天使のラッパみたいにきこえた。あんな楽しい音楽はきいたことがない」。ソファーに腰を下ろし、パイプをくゆらせながら静かに語るパパ。
 おもむろにソファーから立ち上がり、絨毯が敷きつめられた部屋を数歩進んで窓際に立つと、パパは楽しげに述懐する。「病院をでたとき、かすかに東の空が白んではいたが、頭の上はまだ一面の星空だった。こんな広い宇宙の片すみに、ぼくの血をうけついだ生命がいま、うまれたんだ。そう思うとむやみに感動しちゃって。涙がとまらなかったよ」「それからの毎日、楽しかった日、みちたりた日日の思い出こそ、きみからの最高の贈り物だったんだよ。少しぐらいさびしくても、思い出があたためてくれるさ。そんなこと気にかけなくていいんだよ」―−その優しく温かい言葉の一つひとつに、一人娘をいたわる父親の思いが遷される。
「あたし……、不安なの。うまくやっていけるかしら」。不安を口にする娘を勇気づける父親の次のセリフは、ドラえもんマンガ史上、最高の感動を呼ぶ珠玉の言葉のひとつだ。
「やれるとも。のび太くんを信じなさい。のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。かれなら、まちがいなくきみをしあわせにしてくれるとぼくは信じているよ」

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10月29日(水)
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