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活字中毒R。
by じっぽ
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■宮崎駿監督を悩ませた、『風の谷のナウシカ』の「3つのラストシーン」
『仕事道楽―スタジオジブリの現場』(鈴木敏夫著・岩波新書)より。
【『ナウシカ』というと、ぼくがいつもふれるエピソードが二つあります。
一つは製作終盤のときの話。当然のように、どんどんどんどん制作期間を食っちゃって、映画がなかなか完成しない。さすがの宮さん(宮崎駿監督)もあせった。じつは宮さんというのは、締切りになんとかして間に合わせたいタイプの人なんです。それで、彼が高畑(勲)さんとかぼくとか、関係する主要な人をみんな集めて訴えた。「このままじゃ映画が間に合わない」と。
進行に責任を持つプロデューサーは高畑さんです。宮さんはプロデューサーの判断を聞きたいと言う。そこで高畑さんがやおら前に出て言った言葉を、ぼくはいまだによく覚えています。何と言ったと思います?
「間に合わないものはしようがない」
高畑さんという人は、こういうときよけいな形容詞を挟まない。しかも声がでかい。人間っておもしろいですね。そういうときは誰も声が出ない。ただ、下を向いて黙っている。ぼくもどうしたらいいかわからなくて、そのときはさすがに下を向いていました。
しばらく沈黙が続いたあと、宮さんは「プロデューサーがそう言っているんだから、これ以上会議をやってもしようがない」。そのあと、宮さんは必死になって徹夜を続けました。それでやっと映画が完成するんです。
高畑さんの名プロデューサーぶりをいろいろ言いましたけど、最後の最後、高畑さんは監督の立場になっちゃうんです。「間に合わないものはしようがない」、監督・高畑勲のこの言葉に、そのあと何度泣かされたか。
高畑さんは監督として、そういう時間制限に無頓着といわないまでも、けっこう平気です。『ハイジ』のときにもこんな話があったそうです。毎週放送ですから、とにかくストックを作っておかなければならない。みんなその作業に励んでいたわけですが、ところが来週から放送だぞという、最後の最後の段階でまだ、肝心のオープニングの絵が決まっていなかった。宮さんは絵を描く担当だから、「パクさん(彼は高畑さんをそう呼ぶ)、早くやろうよ」と言うんだけど、高畑さんはなかなか重い腰を上げない。そうこうするうちに、高畑さんがプロデューサーをつかまえて、議論をはじめてしまった。聞くともなしに聞いていたら、「なんで1週間に1本放映しなければいけないのか」。これが1時間で終わらず、2時間たっても3時間たっても、えんえんと続く。スタッフは監督の指示が必要ですから、ただ待つしかない。それで、宮さんはしようがなくて、高畑さんにいっさい相談することなく、あのオープニングを作ったそうです。このエピソードは宮さんから百万回(笑)聞きました。
そもそも高畑さんのデビュー作『太陽の王子ホルス』のときからそうだったらしい。悠々と急がないから、宮さんが心配する。「パクさん、大丈夫なの? 公開に間に合わないよ」。高畑さんは平気でこう言う、「人質を取ってんだから大丈夫だよ」。「何なの、人質って」「フィルム」だよ。
もう一つはラストシーンです。王蟲(オーム)が突進してくる前にナウシカが降り立ちます。宮さんは最初、そこでエンドマークというつもりだったんです。あそこで終わっていたら、あの映画はどうだったんだろう? あまりにもカタルシスがないと思いませんか? こういうとき、宮さんはサービス精神が足りないんですよ。
ラストシーンの絵コンテを見て「これでいいのかなあ」と思っていたら、高畑さんもそう思ったらしい。二人で喫茶店に入って、「これはいかがなものか」という話になった。高畑さん「鈴木さん、どう思う?」、ぼく「終わりとしては、ちょっとあっけないですね。いいんでしょうか?」。高畑さんの疑問は、要するに、これは娯楽映画だ、娯楽映画なのにこの終わり方でいいのか、ということなんです。高畑さんは理屈を考えるの得意でしょう、話が長いんですよ。そしてどんどん話題が広がる。ああでもないこうでもないって、多分、8時間ぐらいしゃべってたんじゃないかなあ。
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08月31日(日)
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