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活字中毒R。
by じっぽ
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■「左右対称じゃない靴」を大ヒットさせた男たち
『なぜ、あなたの会社にはこれが作れなかったのか?』(夏目幸明著・小学館)より。
(「アキレス」の大ヒット商品『瞬足』の開発秘話。登場人物は、シューズ事業部商品企画開発部長・津端裕さん、シューズ事業部量販一課課長・久住登さん、シューズ事業部商品企画開発部・大滝慎一さん)
【シューズの販売を担当する久住登が話す。
「子供の運動会で私の娘の出番が終わり、学年別のリレーが始まったときでした」
運動会のリレー。それは選ばれた者の戦いだ。かけっこに自信のある子がクラスのヒーローになれる日……。だが、彼の目の前に映った光景はあまりに残酷だった。
「知人の男の子が3番走者として先頭を争っていたんです。が、トラックのコーナーで足を滑らせて転び、そのクラスは結局、最下位に落ちてしまった」
見れば転ぶ子はあとを絶たない。ある子は悔しさのあまり木の陰で泣きじゃくり、親が無言で子供の肩を抱く、というシーンもあった。
帰り道、考え込んだ。シューズにできることはないのだろうか?
「考えてみれば、校庭のトラックって左回りばかりなんです。ならば、ソールの左側にグリップを付けて、左に曲がりやすい靴を作ったらどうか?」
しかし、彼は自分の発想の突飛さに、自分でも呆れていた。
「でも、そのシューズ、左右対称にはならないよなぁ、と(苦笑い)」
ものの形には合理性がある。デザインを担当する大滝慎一も久住の話を聞いて呆れた。
「その靴だとまっすぐ歩けないんじゃないですか? と言いました。靴の構造は左右対称。これほど当たり前の前提って、なかなかないですよね(笑い)」
だが、久住がこの案を思いついて半年後、異動してきた津端が部員を集めて自由に案を出させると、彼が手応えを感じたのは久住の案だった。明確な理由があった。
「差別化ってイージーな言葉ですよね。よく、仕事で他の業界の新商品発表会に行くんですが、『ここを差別化しました』って説明を聞くと、たいてい使う側から見れば大した差じゃない。その点この案、周囲に理解してくれる人がいないほどでしたが、実はこれこそが本物の”差別化”じゃないのか?」
「作ろう。やってみる価値はあるはずだ」ここで津端は部員にハッパをかけた。それは要約すると、リレーのバトンはもう自分たちに渡されている、という話だった。
「会社は変わらなければならない。僕らは僕らの時代を走らなければならないんです。そして単純なことだけど、”今、自分の胸が熱く躍るものを作る”それが時代とともに走るって意味だと思うんですよ」
津端の挑戦的な言葉に、若い大滝らは共感した。だが、開発は難易度が高かった。靴の左端にスパイクを付けると、大滝が直感したとおりまっすぐ歩くとき影響が出る。そこで、ストッパーに適度な強度を持ったラバーを使った。土のグラウンドではグリップ力を持つが、アスファルトなど固いところを歩くときは曲がって沈み込み、他のシューズと同じようにソールのゴムが着地する仕組みだ。ここで興味深いのは、彼が原点に戻って研究を続けたことだ。
「デザインも一から変えました。子供たちってカッコいいシューズが好きだからゴテゴテと機能が付いているものばかりだったんですが、これを思い切ってなくした。軽いほうが速く走れる。そして、速く走れるシューズこそが本当にカッコいいはずなんです」
だが設計が終わると社内から妙な反応が来た。中国の工場へ試作品を発注したときだ。
「設計図が間違ってないか、と電話があったんです。『合ってます』と伝えると、今度は現場の責任者からも連絡があって『設計図どおり作りますが、責任はとれませんよ』と言われてしまいました。
だが、津端はこの話を聞き、心のなかでニヤリと笑ったという。
「1シーズンに20〜30万足は堅い、と確信を持ったのはこのときです。差別化を考えているのにスーッと行ってしまうほうが、よほど怖いでしょ。関係者が驚き、理解できないという声が出るくらいでないと”斬新”などと言えないはずだ」
(中略)
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07月18日(金)
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