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活字中毒R。
by じっぽ
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■清水義範さんの「おわびの文書を書くコツ」
『大人のための文章教室』(清水義範著・講談社現代新書)より。
(「謝罪文は誠実に長く書く」という項から)
【おわびの文章を書くのは気が重いものである。謝罪文だとか、始末書だとか、申し開きの書などを書く役がまわってくるのは、サラリーマンにとってちょっとした災難だと言っていいぐらいのものだ。
その上、謝罪文というのはなかなか難物なのだ。定型通りのそつのない謝罪文でいいかというと、それではどうもまずいのだ。
「今回、結果的に××様には多大なご迷惑をおかけすることになってしまいましたことを、心よりお詫び申し上げます。今後このようなことの二度とないように心がけてまいりますので、何卒お許し下さい。」
というような型通りの謝罪文なら、出さないほうがいいくらいである。かえってそれを読んでいると、怒りがぶり返してくるってことになりかねない。あやまらなければならないほどの非常事態に対して、型通りの儀礼ですまそうというのか、という不釣りあいが感じられるのだ。
これは私の個人的な意見だが、本当は謝罪文など書かないで、あやまりに行くべきだと思う。直接会って、事情を説明し、頭を下げてあやまるのだ。おわびの文章ですまそうというのが、そもそも心からあやまっているのではない証拠である。
しかしまあ、直接会いに行くことは不可能で、不十分ではあるが謝罪文を出すしかない場合もあるだろう。相手が多数であるとか、遠くに住んでいる、というような場合だ。謝罪文を出すしかないので、それを書く。
そのように謝罪文とはそもそも難しい事情含みなのである。だからそう簡単なものではない。
そこで、謝罪文を書くコツだが、それは、すべての事情を長々と書く、である。文書の長さで、深くおわびしたい気持である、ということを伝えるのだ。A4判の紙一枚の謝罪文なんてとんでもない。少なくとも三枚にはならなきゃいけない。
・この度、このような事態となってしまい、大変ご迷惑をおかけしました。
・このようなことになってしまったのは、当方のこういうミスによるものです。
・なぜそれが防げなかったかというと、たまたまこういう事情があったからです。
・また、気のゆるみから、社内にこのような気運があったことも原因でした。
・その結果、あのようなご迷惑をおかけしたことを心より反省しております。
・以後、二度とこのようなことがないように、体制も整え、心構えしていく所存です。
・何卒ご寛容の心をもって、今後ともよろしくおつきあい下さいますよう、衷心よりお願い申しあげます。
・まことに申し訳ありませんでした。
というようなことを、全部さらけ出して長く書くのである。用語にはあまりこだわらなくていい。衷心より、がいいのか、なんて思うことはなくて、心から、とか、ひらに、などでもいいから、とにかく誠実に書くのだ。
事情を詳しく書くというのは、くどくどと言い訳を並べることになるのでは、と思う人がいるかもしれない。謝罪のはずなのに、弁明ばかり並べるのは失礼ではないかと。
確かに、言い訳を並べるのである。しかしその上で重要なのは、言い訳で押し切ろうとはしないことである。
つまり、次のような構造になっていなければならない。
(1)このような事情により、あんなことになってしまったのです。
(2)しかし、おこってしまった事態については全面的におわびをするばかりです。どうかお許し下さい。
(1)を長々と書くのだけれど、(2)が主眼の文章だというのを外してはいけない。
要するに、謝罪文の目的は、相手に許してもらうことなのだ。一応あやまっといたぞ、が目的ではない。
許してもらうために、(1)の弁明を誠実に長々と書くのであり、しかしあくまで心をこめて(2)の謝罪をしなければいけない。
会社のためにおわびの文書を書かなきゃいけないなんて、サラリーマンも因果な稼業だなあ、と思うかもしれない。だが、これはあやまるしかない、という事態はサラリーマンじゃなくたってあるのだ。私だって、これは詫び状を出すしかないな、と思う時がある。
そうなると、長い長い手紙を書く覚悟をして、じっくりと構成を考えるのである。】
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03月15日(土)
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