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活字中毒R。
by じっぽ
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■「動かないアニメーション」だった『鉄腕アトム』
『アニメ作家としての手塚治虫〜その軌跡と本質』(津堅信之著・NTT出版)より。
(日本初の本格的テレビアニメシリーズ作品である『鉄腕アトム』のアニメーションとしての技術的な側面)
【さて、『アトム』成立に関係する虫プロサイドの動きとして、もうひとつ重要なのは、毎週1回30分の作品を送り出すための、さまざまな技術開発である。すなわと、東映動画に代表される同業者から、電気紙芝居のような動かないアニメーションを「ひとりとして評価する者はいなかった(大塚康生『日本のアニメに期待すること』より)」とまで酷評された、さまざまな省力化手法の開発にあたっての動きである。
これについては、山本暎一が『虫プロ興亡記』で、次のように詳しく説明されている。
(1)3コマ撮り:なめらかに動かしたいときでも、1枚の動画を、従来のように1コマ撮りや2コマ撮りせず、3コマ撮りで撮る。
(2)トメ:なにかを見ているキャラクターの顔のアップなど、動かさなくてもそうおかしくないものは、トメ画にしてしまい、動画1枚ですむようにする。
(3)引きセル:人物がバストショット(筆者注・人物の胸から上を撮影すること)でフレームインするとか、車がよぎるといった、キャラクターが一方の面だけをこちらにむけ、あまり動きのない場合は、動画1枚にし、そのセルをずらしながら撮影して感じをだす。
(4)くりかえし:歩いたり走ったりするキャラクターの動きは、フレームの1ヵ所でくりかえしの動画にして、背景のほうをスライドさせる。こうすると、いくら長くキャラクターが歩いたり走ったりしても、動画枚数は6枚から12枚ですむ。
(5)部分:人物が腕をふりあげる。といった場合、本来は全身を動かすのだが、顔とからだはトメにし、腕だけを部分的に動かす。
(6)口パク:セリフをしゃべる演技は、顔をトメにし、口だけ、(5)の応用で、部分的に動かす。しゃべるときの口のかたちは、本来、いろいろあるが、閉じたのと、大きく開いたのと、中間のと、3種類だけにし、3コマ撮りでランダムにくりかえす。これだと、動画が4枚あれば、いくらでも長ゼリフが可能になる。
(7)兼用:同じ動画を何カットにも兼用する・似たような演技なら兼用でまにあわせてしまい、演技のデリケートなちがいなど無視する。
(8)ショート・カット:ワンカットが長いと、キャラクターをいろいろ動かさないといけないので、短いカットにする。また、前項までのようなチャチな動きでは、ワンカットを長くもたせられないので、その点でも短いほうがいい。
やや専門的な内容も含まれているが、(1)にある「3コマ撮り」とは、ディズニーやディズニーを手本とした東映動画をはじめとする「国際標準」が1秒あたり24枚(1コマ撮り)か12枚(2コマ撮り)の絵を使用していたところ、1秒あたり8枚(もしくはそれ以下)の絵を使用したという意味である。つまり、映画用のフィルムは1秒あたり24コマであるため、3コマで1枚の絵を使用するという計算になり、「絵が動いて見える」ギリギリのラインと計算したようであるが、かなり荒い動きに見えたことは間違いない。また、たびたび使用されるフルアニメーションとリミテッドアニメーションという語の意味であるが、(6)にある「口パク」のように、喋る時に口だけパクパク動かすといった限定的な動き(リミテッドアニメーション)に対して、全身を豊かに動かす方法がフルアニメーションである。(ときどき1コマ撮りまたは2コマ撮りのことを「フルアニメーション」と呼ばれることがあるが、これは本来の意味からすると誤りである)
こうした「省力化」の結果として、『アトム』は1話20数分に使用する動画枚数は1500〜1800枚に収まることになった。これは、当時の東映動画が制作していた長編アニメーションに比べると、10分の1以下の枚数である。しかも、話数を重ねると、(7)にあるように、兼用できる動画のストックが増えてきて(これは後に「バンク・システム」と呼ばれるようになり、多くの後続のアニメスタジオが多用した)、1話にあたって新規に描く動画枚数はますます減っていったという。
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11月01日(木)
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