ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■鮨ネタを食べる「順番」
『鮨に生きる男たち』(早瀬圭一著・新潮文庫)より。

(「すきやばし次郎」の小野二郎さんの項から「鮨ネタを食べる『順番』」について)

【ところで食べる順番にどうしてこだわるようになったのか。
「平目(夏だとまこがれい)から食べてみると、ほのかな甘みや香りはもちろんのこと、シャリの酢加減までがよくわかります。味覚が麻痺しないので、次に口に入れる握りの味もしっかり識別できます。大トロを先に食べてそのあと白身にすると、大トロの強い脂が口の中に残ってしまい、白身のおいしさが伝わらない。白身から鮪と続けてみたほうが両方の特徴が出ることがわかりました。大トロの後は小肌がいい。小肌の酸味がトロの脂を消します。しかもきりっとした印象が残ります。相乗効果で小肌のうまさも際立つのです。この次は何が出るのか、期待もふくらみます」
 小野が鮨職人をめざして「与志乃(よしの)」に入った頃、まず中トロを2カン出し、次に大トロを2カン出す。4カン握って、さあ次は何にしましょうというのが鮨屋の常識だった。天麩羅の店がまず海老を揚げるのと同じで、最初にその店を代表するものを出すのがしきたりであった。そんな形を破って、「お好み」から「おまかせ」に到達するきっかけは、評論家山本益博にある。山本が昭和57年『東京・味のグランプリ200』(講談社)を出版したとき、その中で「次郎」のことをこう紹介した。
「この店のすしダネは超一級品で、ひらめ、まぐろはまことに素晴らしい。まぐろなどは『久兵衛』の上をゆくまぐろで『美家古(みやこ)』『与志乃』と並んで東京のすし屋のまぐろとしては最高のものであろう。このまぐろを最初に食べたいところだが、それではひらめの味がだいなしになってしまう。それほどにひらめも甘みとうまみがあって見事である」
 これを読んで小野は考えた。
 それまで最初に出すのは鮪だった。白身の平目や鰈から出すことなど思いつきもしなかった。山本の言うことは一理ある。さっそくその順番で試食してみるとなかなかいける。このときから握る鮨のネタの出し方を意識するようになった。あれこれ試行錯誤して今日にたどりつくのである。順序を重んじる懐石料理も参考になっている。】

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 「すきやばし次郎」といえば、まさに名店中の名店です。その「すきやばし次郎」の「生きた伝説」とも言える鮨職人、小野二郎さんが語る「鮨を食べる順番」の話。
 僕はカウンターで鮨を食べた記憶が一度か二度しかないのですが、よく「通はまずは白身から」なんていう薀蓄を耳にします。でも、そういう「通のマナー」みたいなのを聞くにつれ、逆に「マナー違反の注文の仕方をしてバカにされたらどうしよう」というようなプレッシャーがかかって、鮨屋のカウンターからは足が遠のいてしまうのです。回転寿司のほうが、安いし好きなように食べられるからいいや、とか考えてしまうんですよね。この本を読んでいると、一流の職人たちが握る鮨をぜひ一度食べてみたいなあ、とは思うのですけど。

 しかしながら、この文章を読んでみると、その「鮨を食べる順番」というのは、そんなに昔からあった「マナー」ではないようです。昭和57年の山本益博さんの本がきっかけになって、小野さんはいろいろ試してみられたそうですから、今から25年くらい前までは「鮨屋でカウンターに座れば、黙っていてもまずまぐろ、それも中トロと大トロを出す」というのが「常識」だったということです。まぐろというのは鮨屋にとっては「看板」ですから、まずその看板をお客さんに味わってもらう、というのは、確かに当たり前の発想なのかもしれません。トロは仕入れるのにお金がかかりそうですから、なるべくロスが出ないようにまずこれを食べてもらうというのは、コストの面からも合理的ではあるでしょうし。


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05月13日(日)
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