ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
[10025288hit]

■黒田博樹「スーパースターになるならカープで」
「Number.677」(文藝春秋)の特集記事「野球魂。」より、特別ノンフィクション「黒田博樹『誰がためにカープを』」(室積光・文)の一部です。

【黒田博樹が肉体でけでなく「心」も両親の何かを受け継いだことは確かだ。
 野球を始めた少年野球チーム「オール住之江」でも父が監督だった。お互いやりにくかったようで、父は贔屓していると思われないように息子には殊更厳しくした。
 その頃から目標とする選手はいないという。黒田は常に自身の中でフロンティアなのだ。
 父がOB(黒田投手の父親である一博さんは、南海で活躍した元プロ野球選手)である関係から、大阪球場で南海ホークスの試合を観戦することが多かったが、ファンというほどでもなかった。
「ただ、観客の少ない試合でも頑張っている選手を見ると自分のために頑張ってくれているように思えたんです。誰かがヒットを打つと、僕のために打ってくれたって」
 だから今逆の立場にあって、そんなファンのために頑張りたいという。
 確かに広島市民球場が満員になることは珍しい。だが、少ない観客の中には初めてプロ野球観戦に来た人、あるいは遠くからわざわざ足を運んだ人もいるだろう。
 忘れがちなことである。演劇の世界でも「観客とはいつも初対面」という言葉がある。
「年間で投げても30試合ぐらいですけど、いつもこの試合で終わってもいい、というつもりでマウンドに上がります」
 と黒田は言った。だからグラブを出さずに右手で打球をつかみにいくことがあると。
「僕らはお客さんの前で頑張ることしかできないじゃないですか」
 言葉はシンプルだが、この人が言うと重みが違う。

(中略)

 黒田にとって、カープは最初に声をかけてくれたプロ球団だった。
「もし高校時代にスーパースターになっていたら、そのままスーパースターである自分を追い求めていたように思いますが、自分ではスーパースターになれないと思いますし、逆になるならカープで、とも思います」
 つまり人気球団に移籍して、一瞬あだ花のようにスーパースター扱いされるより、カープで継続して結果を残して評価される方に価値があるのではないか、と考えたというのだ。
 黒田博樹は安易な道より、苦しくとも本物と思える結果を出す道を選んだということだ。
 確かに自分自身が納得する方を選べば後悔はないだろう。私は彼が正しいと思う。だが、
「どちらが正しいか野球人生が終わってみるまでわからないです」
 と黒田自身はあくまでも冷静だ。
 これを見ても今回の彼の選択が、単なる人気取りのスタンドプレイでないのがわかる。真剣で重い決断であったのだ。】

〜〜〜〜〜〜〜

 カープファンである僕は、黒田残留のニュースをネットで見たとき、涙が止まりませんでした。いや、カープファンでさえも、大部分の人は、黒田投手の残留を願いながらも、「やっぱり出ていってしまうのだろうなあ……」と半ばそれを「規定路線」だと考えていたのではないでしょうか。カープに残留すれば年俸だってメジャーや巨人・阪神に比べればはるかに安くなってしまうでしょうし、甲子園球場での阪神のように、熱狂的な満員のファンに後押しされることもほとんどないでしょう。彼ほどの超一流の投手でさえ、全国的な知名度は、巨人の「ようやくローテーションに入っているくらいの一流半の投手」に負けていたりもするのです。カープファンの僕でさえ、「黒田が自分の友達だったら、『残ったほうがいい』とは言えないんじゃないだろうか……」などと考えていましたし。
 黒田投手の「残留」が、プロ野球界に大きな一石を投じたのはまぎれもない事実です。この残留劇は、ファンが選ぶ昨年の「プロ野球のいい話」の第一位に選ばれましたし、「黒田を獲得できなかった」はずの他球団の監督や球団社長も「個人的には、野球界にとって、すばらしいことだと思う」とコメントしていましたし。
 この号の『Number』で、近鉄の「球団消滅」を経験した、現ソフトバンクの大村直之選手に関してのこんな話が紹介されていました。


[5]続きを読む

05月06日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る