ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「自費出版」は、美味しい商売!
「書店繁盛記」(田口久美子著・ポプラ社)より。

【出版界全体は不景気だが、自費出版はますます隆盛である。不景気な昨今、こんな美味しい市場がまだあるんだ、と古狸の私でさえうなずいてしまう。注文制で製作リスクも販売リスクもない、はっきり言って丸儲けの市場だ。しかも客単価が高い、最低でも1件50万は堅い。あとは客が来るのを待つばかり、小規模の出版社はホームページで募集、大規模になれば、新聞広告を大きく打って、待っていれば来る。「契約書店で販売も可能」とさらに重ねればもっと来る。「大型書店で相談会」と銘打てば、もっともっと来る。営業と編集、広告経費だけが原価。重ね重ね美味しい市場だ。ジュンク堂のように商売の邪魔するやつが現れたら、怒鳴り散らせばいい、客は書店でも読者でもなく注文主なのだから。

 先日ひょっこりと訪ねてきた友人が「母親が自費出版で本を出してね」と椅子に座るなり切り出した。へー、お聞きしましょう。
 彼女の母親は自費出版社界の最大手で出版した、という。最大手だけあって一つ一つ両者納得ずくで契約を結んでいる。「こんなにすばらしい原稿なんだから、きちんとハードカバーで、って担当編集者は言うのよ」ということでまず150万円位の見積もりから始まって、写真が入って、地図が入って、と少しずつ製作経費が高くなっていく。「それで、本になったら書店で売りたいかって聞かれたそうなの、売るならあと50万、営業マンが書店で販促するならあと50万、って高くなっていくみたい。広告を打つならあといくら、っていう具合に」なるほど、かかる経費はきちんと注文主の負担、というマニュアルができている。書店での経費が妥当な金額かどうかは別として。「私が反対して、書店で売ることはやめたの、誰が買ってくれるのよ、って言ったら母親は悲しそうだったけれど」
「本にするのが長い間の夢だったんでしょう。道楽にしてはそんなに高くはないと思うけれど、形になって残るから」「そうなんだけどさ、母親が不満なのは、ほら、自分は素人だから、ちゃんと原稿を直してほしかったみたい。編集部がきちんと手を入れてくれれば、いい本になると思っていたらしいの。それが原稿を渡して、次に編集者が来たときには、もう印刷に回したって言われてがっくりきたみたい」丁寧な創作指導、というのはまた別料金だったのかもしれない。
「お母さんは戦争中、天津で暮らしたんだ」「そう、だから子供の頃のことを書いて、もし万が一にでも当時の知り合いが読んで連絡をくれたら、って思ったらしいのよね。でも名前を全部KとかSとかに変えられちゃったらしくて、そこのところだけはきっちりと直されたみたい、あとは全然なのに」
 大手の出版社では月に150点から200点も出版している、という話しだ、いくらお客さんとはいえ、リピートはないわけだから、いちいち入れ込んで構成しなおしたり、文章を直したりしている余裕はないのだろう。なんといってもお客は次から次ヘと来る。
「分かった、この1冊を棚に入れておいて、売れたら連絡するわ」といって預かった。『天津租界の思い出』(豊田勢子 文芸社 04年)

 しかし、本のプロとアマを分けるのはこの編集力ではないか、とつらつら思う。私たちが「自費出版」という分類わけをするのも、そのへんに理由がある。出版社と著者の契約で「書店におく」と決められた本が取次から入荷し、小説なりエッセイの棚に入れるとなんだか浮くのだ、プロの作った他の本にはじかれてしまう。前述の怒鳴り込み事件のときに我らの担当者が本音を漏らしたように、一般小説の棚に入れるのを躊躇させる出来なのだ。

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11月10日(金)
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