ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「お前は何を言ってるんだ!」とキレてみるのも一興
「ハンバーガーを待つ3分間の値段〜ゲームクリエーターの発想術〜」(齋藤由多加著・幻冬舎)より。

(『問題のすげかえ』という項より)

【人間が(しっかりとした理由もないのに)うしろめたさを感じてしまうという心理的な効果を『シーマン』で応用したことがあります。
『シーマン』はそもそも音声認識という未完成な技術を使っているゲームです。
 目新しさのアピールもあって、試作品が出来上がった時点で発売元が話題作りを目的としたイベントを都内の大型水族館で催したことがありました。
 館内に展示されたプロトタイプが動くテレビの横には、マイクとともに「話しかけてみてください」という表示があり、来館者が興味深げに画面の中の奇妙な魚に向かっていろいろと話しかけるようになっているわけです。
 相手が言うであろう言葉をあらかじめ想定して入れ込んでおき、それぞれに対応するようになっていました。もし相手の音声が聞き取りにくく言葉として認識できないときは、
「え? 今なんて言った?」
「よくわからないぞ、もう1回言ってみて」
 などと、認識できるまで聞きなおすように作られていたのです。
 本来、この反応はユーザーにどういう状態かを知らせる、という意味でソフトウェアのメッセージとしては正しいもののはずでした。
 ところが実際は、このセオリーがあだとなってしまったのです。
 というのも来館者が語ってくる言葉というのは好き勝手放題で、こちらが想定していたものとはまったく違うものばかりだったため、ほとんどが認識できない言葉となってしまったのです。かわいそうなシーマンは、
「え? 今なんて言った? もう1回言ってみて」
「うーん、もう1回言ってみてくれ」
 などと繰り返すばかり。
 そんなシーマンが来館者にとっておもしろいはずがありません。多くの人が不満そうに、
「こいつバカじゃん!」
 と言って、機械を蹴飛ばさんばかりに怒って立ち去ってしまったのです。
 そういう光景をずっと観察していた私は、かなり落ち込みました。
 池袋から山手線に乗っている間、どうしたらこの状況を解決できるか、あらゆる手立てを考えました。
 認識できる言葉を増やすと認識率は下がる一方です。できることといえば、ユーザーにもっとわかりやすい言葉で話しかけてもらえるように働きかけることぐらいしかありません。
 ですが、『シーマン』はゲームですからビジネスソフトのように説明をあれこれ入れてしまってはユーザーは完全に興ざめしてしまいます。残された時間はごくわずか……。
 原宿駅で降りるまでのわずかな時間で決断したこと、それは、今にして思うとギャンブルに近いことでしたが、次のようなものでした。
 音声が認識できない理由をユーザーに責任転嫁してしまおう、と。
 つまり、認識できない言葉が続くとシーマンは怒った口調で、
「おまえの言葉、何回聞いてもわかんねぇよ! つまんないから帰るわ。バイバイ」
 と不愉快そうに言い放ち、水槽の奥のほうに去ってしまう……。
 認識できない原因が一方的にユーザーのせいであるとしてしまうわけです。
 脅しにも似たこのとんでもないアイデアを入れた結果、ユーザーの反応はそれまでとはがらっと変わりました。
「……ごめんね、シーマン」
「おーい、お話しようよ」
「ねぇねぇ、シーマンてば」
「こっちおいでよ」
 まるで赤子をあやすように、人はなるべくわかりやすい言葉をゆっくりと話すようになっていったのです。
 こういうわかりやすい言葉はすべて認識できるようにしてありましたから、そうこうするうちに「……わかりゃいいんだよ。俺だって好きでお前に飼われているんじゃないんだからな、しっかり話してくれよ……」、そう愚痴を言いながらしぶしぶシーマンは戻ってくる……。
 この反応の変化にスタッフは驚いたものです。何せ技術的にはまったく変わっていないのですから……。

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02月28日(火)
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