ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■「のび太くんを選んだきみの判断は正しかったと思うよ」
 あの(!)のび太が、思慮深いしずちゃんのパパからこのような発言を引き出したのだから、読者にも妙に感慨深いものがあるだろう。現実世界の翌日、しずちゃんが玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは、涙を流しながら「きっときっと、きみをしあわせにしてみせるからね!!」と叫ぶのび太と、右手で大粒の涙を拭って立ちすくむドラえもんだった。】

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 この『のび太の結婚前夜』は、「てんとう虫コミックス」の25巻に収録されています。僕がこれをはじめて読んだのも、このコミックスだったはず。
 当時の僕はまだ小学生でしたから、この『のび太の結婚前夜』、「いい話」なんだろうけど、あんまりピンとこない感じだったんですよね。
 「人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる」なんて、あたりまえのことなんじゃないの? のび太なんかと結婚して貧乏暮らしをするより、出来杉とかと結婚したほうがいいに決まってるだろ、このお父さんは「甘い」なあ……というようなことを考えていた記憶があります。
 いやまあ、実際はあの世代の子供のころの人間関係が、大人になってもそのまま継続しているということそのものがありえないのですが。

 しかしながら、自分が30代の半ばをすぎ、「オトナ」とみなされる年齢になって、この「しずちゃんのお父さんの言葉」の優しさ、深さをしみじみと噛みしめられるようになりました。
 子供のころ、「人間としてあたりまえのこと」だと思っていたはずの「人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことができる」人間に、僕はなっている自信がありません。
 そして、この世界で本当にそれができている人間が、どのくらいいるのだろう?

 いま考えると、これは「しずちゃんのお父さん」に託した、藤子・F・不二雄先生から読者へのメッセージだったのでしょう。
 すでに「大人」だった先生は、いろいろな人間の姿をみてきて、「あたりまえに生きることの難しさ」を実感していたのだと思います。
 僕の場合、結局その「価値」がわかったのは、もう後戻りできないくらいのオトナになってしまってからだったのですが、たぶん、この話を読んだ、多くの子供たちも同じだったのではないかなあ。
 小学生にとって、「自分の娘が結婚するときの親の気持ち」というのは、やっぱりちょっと想像もつかないものだろうし。
 肝心なことというのは、肝心なときにはなかなかうまく伝わらないものなのかもしれません。
 あるいは、最初から「読者が大人になったときに思い出してもらうために」書かれた話だったのでしょうか。

 しかし、あらためて読みなおしてみると、この話も「のび太が出来杉に嫉妬したこと」がきっかけになっているのですから、のび太はのび太で「聖人君子」ではないというか、けっこう「邪念に満ち溢れている利己的な人間」のようにも思えます。
 まあ、そこがまた、のび太の「人間らしさ」でもあるのですけど。

10月29日(水)
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