ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
[10024515hit]

■「左右対称じゃない靴」を大ヒットさせた男たち
 実は発売に至るまでにも紆余曲折があった。販売店がなかなか商品を置いてくれないのだ。だが、営業も兼務していた津端が必死に口説いて回った。口説き文句は、ただひとつ。「これが新しいスタンダードになりますよ」。なんとか確保できたのは全国300店舗。個人経営のスポーツ店などを、津端や彼の部下が一軒一軒訪問した成果だった。
 ところが、2003年4月に商品が販売されると、状況が徐々に変わり始める。最初の売れ行きはまずまずだったが、9月に異変が起こった。
「通常、シューズは春に売れるんですが『瞬足』は運動会シーズンを前に一気に売り上げを伸ばした。開拓できたのは”運動会用のシューズ”という新しい需要でした」
 しかも、子供たちはその後もこぞってふだん履きのシューズとしても『瞬足』を選んだ。速く走れる。それは何よりカッコいい。翌年にかけて販売店舗が3倍以上に伸び、大滝らがさらなる軽量化、グリップ力の強化を続けると、売り上げは津端らも驚くカーブを描いた。年間の売り上げ、約300万足。小学生は全国で600万人程度というから驚くべき数字だ。】

参考リンク:アキレス『瞬足』

〜〜〜〜〜〜〜

 僕はこの本で『瞬足』のことをはじめて知ったのですが、小学生の子供を持つ親たちには、もうすっかりお馴染みの商品なんでしょうね、これ。
 【津端さんが娘の小学校で下駄箱を見ると、3足に1足は『瞬足』だった】というエピソードも紹介されていますし。

 この「左右非対称の靴」、こうして大ヒット商品になってしまえば「なるほど!」と頷かざるをえませんが、商品化され、起動に乗るまでは、かなり大変だったみたいです。
 F1の世界では、車はサーキットを同じ向きにずっと回っていくので、左右のタイヤの磨耗に差が出ることが知られています。そこで、少しでも速く走り、また、タイヤを効率的に長持ちさせるために「左右違う堅さのタイヤを装着して走る」というのは、当たり前の戦略になっているのです。
 でも、それはあくまでも「1000分の1秒を争い、莫大なお金が動くモータービジネスの世界の話」。特定のスポーツのための専用シューズならともかく、「運動会のため」に、まっすぐ歩けるのか疑問になるようなシューズは買わないだろう、と考える専門家たちのほうが、「常識的」だったと僕も思います。もちろん、『瞬足』がこんなに大ヒットしたのは、「運動会のときに速く走れる」だけではなく「普段の履き心地も良くなる」ように、妥協せずに研究したからなのでしょうけど。

 僕がこの話のなかでもっとも印象に残ったのは、津端さんの【「差別化を考えているのにスーッと行ってしまうほうが、よほど怖いでしょ。関係者が驚き、理解できないという声が出るくらいでないと”斬新”などと言えないはずだ」】という言葉でした。
 実際は、専門家や関係者に「おお、これならわかる」「これならいいんじゃないか?」と頷いてもらえるような「差別化」を目指して、そこをゴールにしてしまう場合がほとんどです。
 しかしながら、その程度の「差別化」というのは、要するに「専門家たちにとっては、想定内」だし、「誰かがどこかで思いついたことがあるくらいのもの」です。
 逆に、専門家が「何だそれは?」「そんなのダメだよ……」と言うくらいの「常軌を逸した」ものじゃないと、素人目からすれば、「本当に新しいもの」じゃないんですよね。
 もっとも、『瞬足』の場合は見事に大成功を収めましたが、こういうのは大きな「賭け」であることも間違いありませんが。

 ところで、この話を読んでいて、僕はオリンピックの「水着問題」を思い出してしまいました。
 『瞬足』は、開発者たちの熱い気持ちが込められた素晴らしいシューズなのですが、その一方で、「『瞬足』を履いていると、明らかにかけっこで速くなる」ということであれば、「『瞬足』を買えない子はどうするんだ!差別だ!」との声が出てくる可能性もありそうです。

[5]続きを読む

07月18日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る