ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■芥川賞・直木賞を辞退した作家の「辞退理由」
芥川賞・直木賞をめぐるさまざまなエピソードが集められている文章の一部。受賞決定後の辞退者というのは、戦前に芥川賞が1人、戦中に直木賞が1人しかいないそうです。そんなに少ないのか!という感じなのですが、その「たった1人」の辞退理由というのは、けっこう気になりますよね。ちなみに現在は、「最終候補作品とすることに各作家から諒解を得ている」そうなので、まず受賞辞退は起こらないようです。落選した際の選考結果を読んで「こんな賞は今後もう要らない!」と決別宣言してしまった横山秀夫さんのような例もあるのですけど。
山本周五郎さんに関しては、「今さら俺(のような地位の定まった作家)に直木賞じゃないだろ!」ということで辞退された、あるいは、そういう賞を嫌う反骨の士であった、ということなのだと思います。現在、「山本周五郎賞」というかなり権威のある文学賞に名前が冠されているというのは、ちょっと皮肉な感じではありますが。
しかしながら、高木卓さんの話は、なんだか読んでいてめぐりあわせの悪さというか、人生の悲哀が伝わってくるようなエピソードでした。同人誌の先輩に賞を譲るために芥川賞を辞退してしまったと言われている高木さんは、当然のことながら、その後芥川賞に縁がありませんでした。今の時代の僕からすれば、そうやって「譲った」ところでそんなに都合よく先輩にお鉢が回るなんてことはないだろうと思うのですけど、たぶん当時は、「文壇」という世界が狭くて、そういうことが起こりうると信じられていた時代なのでしょうね。もちろんこれも「真相」が高木さんの口から語られたわけではないので本当のところは藪の中なのですが、芥川賞そのものだけではなくて、菊池寛さんらに悪い印象を持たれてしまったのは、その後の作家活動において、かなりのマイナスではあったでしょう。
その一方で、「後輩に譲られた」側の櫻田常久さんは、その次の回であっさりと自力で芥川賞受賞者に名を連ねることになりました。もちろん櫻田さんは辞退などしていません。そのとき高木さんは、「やっと安心できた」のでしょうか、それとも「こんなことなら、前回は自分が貰っておけばよかった」と思ったのでしょうか?
もうひとつの第28回の芥川賞の話ですけど、松本清張さんといえば、日本の社会派推理小説の草分け的な存在であり、むしろエンターテインメント系のような気がするのですが、実は芥川賞の受賞者だったという話にはちょっと驚きました。貰っているのなら直木賞のほうだろう、という感じなのに。
ただ、これを読んで「芥川賞と直木賞の境界線への疑問」というのは、最近言われ始めたことではなくて、ずいぶん前からあったのだな、ということはよくわかりました。現在では芥川賞・直木賞の選考会は同時に開催されているので、「直木賞の選考会で、芥川賞候補に回すことが決められる」なんてことはありないのですが、今でも「この作品は芥川賞候補になっているけど、作家のキャリアや内容的には、直木賞っぽいけどなあ」って思うことはけっこうありますよね。結局のところ、そういう「曖昧さ」も含めて、芥川賞・直木賞というのは、日本の文壇の権威であり続けているのです。
02月13日(火)
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