ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
[10025640hit]

■『このミステリーがすごい!』の歴史的変遷
 宝島社の『このミステリーがすごい!』という本が、革命的なミステリーのランキング本として最初に世に出てから、もう19年になるのですね。いまの日本のミステリーの隆盛にはこの本の貢献度が非常に大きかったと思いますし、大沢在昌さんも『このミス』で1位になったおかげで、自分がブレイクできた、と仰っておられます。考えてみれば、今から20年前の日本のミステリー界というのは、僕を含む多くの「潜在的読者」にとっては、「読んでみたくても、どの本を手にとってみればいいのかわからない」という状況だったような記憶があります。インターネットも『ダ・ヴィンチ』もなく、『本の雑誌』の存在すら知らない田舎の本好きにとっては、「ミステリー」というジャンルは、興味があっても、かなり敷居が高かったんですよね。本、とくに新刊書って、中高生にとっては、けっして安い買い物ではないですし。

 そんな中、『このミステリーがすごい!』が刊行されたのは、非常に大きな事件でした。「文学賞」はともかくとして、ある一定のジャンルの本を識者が投票し、それを点数化してランキングするという手法には、かなりの反発もあったようです。「小説っていうのは、そんなものじゃない!」って。あるいは、本の紹介をするときに、どうしても一部ネタバレしてしまうところもありますし。でも、「どのミステリーを最初に読んだらいいのかわからない」という読者にとっては、『このミス』が、ひとつの「読んでみる基準」になったのは間違いありません。大沢さんだけでなく、『このミス』で上位にランクインしたおかげでブレイクした作家もたくさんいます。
 ただ、その一方で、『このミス』そのものも、その影響力の大きさによって、変わっていかざるをえない面も出てきているようです。【「『このミス』に載っていて、『このミス』より売れる本はない」】というのは、ごく一部の例外を除いてはまさにその通りなわけで。「作品そのもの」よりも、「作品を紹介し、格付けする本」のほうが売れてしまうというのは、やはり、作家側としてはちょっと腑に落ちないところはあるのかもしれません。まあ、自分の作品が毎回上位で、『このミス』が売り上げに貢献してくれているのならともかく。もっとも、他のジャンルにおいても、『ファミ通』より売れているゲームというのはごく少数だったりもするのですけど。

 ここに書かれているように、ベテラン作家に関しては「この人はこのくらい書けて当たり前」というようなハンディもつけられているような印象もあるんですよね。読者側としても、「いつもの人」よりは「期待の新星」の作品を読みたい、という意識は間違いなくあります。
 最初は「ブレイクスルー」であったはずの『このミス』も、「権威化」してしまうと、逆に「『このミス』で上位にランキングされていないから、駄作なんじゃないか?」と思われたりもしそうです。

 逆に、ここまでミステリーというジャンルが多様化してくると、「1位だから万人ウケするような作品」というわけでもないですしね。ランキングそのものよりも、上位のなかで、自分好みの作品を探す参考書的な使い方をしている人も多いのではないでしょうか。今回1位になった『独白するユニバーサル横メルカトル』(平岡夢明著)なんて、「すごい!」のかもしれないけれど、扱われている内容(ちなみに、スカトロとか人肉食とかが扱われているそうです。うーん)が、「僕はちょっと遠慮させていただきます」という感じですしね。
 

12月25日(月)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る