ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■この世界に、新しい浴衣の版型を増やすということ
 そして、『MOTHER』というゲームは、糸井さんにとって、「自分の子供へのメッセージ」でもあったようです。「ゲーム」という「なるべく多くの人に受け入れられてほしい商品」を作っているうちに、どんどん「個人的なもの」が反映されていくというのは、ちょっと不思議な気もするのですが、創作というのは、たぶん、そういうものだろうな、とも思えてきます。

 ここで糸井さんは、ラジオで聴いたという「江戸浴衣職人の話」を引用されています。そして、この話には、この老職人だけではなくて、糸井さんの「クリエイターの矜持」を強く感じるのです。
 この職人さんは、自分の息子に、「他人の版型を買うなら、自分で作れ」と言いました。たぶん、既成の人気のある型や美しい型を買ったほうが、手間もかからないだろうし、商品としての浴衣だって売れる可能性は高いと思うのです。でも職人は、そういう目先の利益よりも、「この世界に浴衣の版型をひとつ増やすこと」に誇りを持つようにと、息子に話したのです。
 もちろん、そうして新しく作られる版型がすべて傑作というわけにはいかないでしょうし、現実的には、受け継がれていくような「作品」になるのは、ごく一握りのものでしかないでしょう。もしかしたら、彼らの「創作」は、全く歴史に残ることなんてないのかもしれません。それでも、「新しいものを作っていこうという気概」が、「要領よく、過去の遺産を消費していくこと」よりも意味を持つ場合はあるのです。そして、そんな非効率的にみえるプライドの積み重ねが、少しずつ、全体を「進歩」させてきたのだと思います。
 
 まあ、口で言うほど「創作」というのは、簡単ではないのですけれども、それでも、「新しく何かを世界に遺そうという意思」というのは、その創作物の出来にかかわらず、素晴らしいものなのですよね。
 少なくとも、他人が作ったものを、ああだこうだと言っているだけの人には絶対に届かない「未来への矜持」が、そこには存在しているのです。

05月31日(水)
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