ID:60769
活字中毒R。
by じっぽ
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■『ちびくろサンボ』は君に語りかける
それでも、ハリウッド映画で描かれる「現代の日本人像」に苛立ちをおぼえる僕としては、「書いた人だって悪気があったわけじゃないし、別にいいんじゃない?」と思う一方で、ああいうふうにステロタイプの「土人」として描かれることには、やっぱり黒人たちには抵抗感もあるのではないか、という気もしなくはないんですよね。おそらく、日頃あまり差別される側に無い人間からみた「このくらいはいいだろう」というボーダーラインと、本当に差別されている側の人からみたボーダーラインとは、イメージ以上の格差があるでしょうから。
そして、もともとそんな意図のないはずの「ちびくろサンボ」にも、こういう歴史が伴ってしまうと、なんとなく、「深読み」してしまいがちになるのも事実ですし。
いや、正直なところ、この「絶版事件」がなければ、「ちびくろサンボ」なんて、「誰もが子どものころに幼稚園で一度は読んだ虎がバターになる話」でしかなかったかもしれないし、あるいは、この物語自体が自然淘汰されてしまっていた可能性すらあるのではないでしょうか。
少なくとも、僕が子どものころまで「語りつがれてきた物語」の多くは、現代の子どもたちにとっては知らない話になりつつあるのですから。
あの「マンガの神様」こと手塚治虫さんの著作は、「人種差別表現が多い」ということを理由に、手塚さんが亡くなられた後、一年以上出版を自粛されていた時代があるそうです。人一倍自分の作品を大切にされていた方だから、勝手に手を入れるわけにはいかないが、著者は故人だし…というジレンマの末に出た結論は、マンガには手を入れずに(一部「お蔵入り」になったものはあり)、本の末尾に「このマンガには人種差別的表現が一部に含まれていますが、書かれた当時の時代背景とオリジナリティを尊重し、そのまま掲載しています。これを機会に、差別についても考えてみてください」という注意書きを入れる、というものでした(ちなみに「」内は、僕が文意の概略を記憶で書いたもので、正確ではありません)。
もちろん、手塚先生としては、こういう注意書きがつけられてしまうことは、あまり本意ではないだろうな、とは思います。なぜなら、手塚先生の作品の多くはテーマを抱えていますが、それはやはり、楽しんで読んでもらううちに自然に読者に感じてもらうべきものであり、誰かに「考えてみてください」なんて言われるようなものではないはずだから。
それでも、現在ではその注意書きをつけないと本は出せないし、一度そういうものを目にしてしまうと、やはり、作品に色がついてしまうのも否定できません。
まあ、こういう話は尽きなくて、どんどん「差別狩り」はエスカレートしていく一方で、映画「ロード・オブ・ザ・リング」ですら、【フロドたち旅の仲間は「アメリカ絶対正義の象徴」で、冥王サウロンは「イスラム世界の象徴」であり、これは、アメリカ帝国主義のプロパガンダ映画だ!】とか言う人だって世界の中にはいたらしいですから……
話が長くなってしまいました。
不思議なものですね、「絶版にさせられた」なんて話を聞くと「許せん!」と思うけど、「復刊される」と聞くと、「今の子どもにはどうかねえ?」と醒めた気持ちになってもみたり。
本人の意思とは全く関係なく「差別について考える教材」になってしまったちびくろサンボ。
それでも、ちびくろサンボは、君に語りかける。
「所詮、どんな人間だって、ぐるぐる回って最後はみんなバターになってしまうだけなのにね」って。
03月03日(木)
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