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ダメダメ医学生の京風日記
by 伯耕
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■解剖実習、初日
今日から後期が始まる。
夏休みが長すぎたせいか、学校が楽しみだと思ったのは
なんか小学生以来のような気がするなあ。
午前中はまず英語UB。
A号館取り壊しに伴って教室が1号館に移動。
初めて入った1号館はさすがに新し機能的でいい感じ。
授業自体も最初のガイダンスだけで終了。
昼飯、「ますたに」でラーメン。
京都ラーメン発祥の店とも言える有名店だ。
銀閣寺近く、疎水脇の小道に何気に存在しているこじんまりした店。
昼時という事もあってかなり混雑していた。
ラーメン自体はオーソドックスな背脂系に、
独特の酸味と辛みが加わったもの。
さすが50年の風格、美味しかったです。
さて・・・ついにこの日がやってきました。
今日から医学部生の通過儀礼、肉眼解剖実習が始まります。
肉眼解剖実習ってのは、いわゆる解剖実習のことで、
実際に人間の御遺体を解剖する事により、
マクロレベルでの人体の構造を学び、用語を覚えるという科目。
1時前に解剖センターに到着、更衣室で白衣に着替える。
そして友達と共に地下の解剖実習室へ。
今までドアの前までは恐る恐る近づいた事がある部屋。
ただその時は「解剖実習室」という威圧感から
そのドアに手をかけることすら出来なかった。
ドアを開ける。まずは防腐剤の刺激臭が鼻についた。
入ってみると室内は思ったよりも明るい。
というより、俺にはまず「白っぽいな」と思えた。
そしてその白い光に照らされた銀色の実習台の上には、
白い布で包まれた御遺体が整然と並んでいる。
実習台の前に座る。
すぐ目の前には白い布で包まれた一人の御遺体。
布で包まれていることが逆に、「人間の形」を意識させる。
実習室に入り、いきなり向き合わなければならない「死」という現実。
ガイダンスが始まった。
実習に使われる御遺体は全て、本人、そして家族の方の
尊い御遺志により、医学生の解剖実習用に献体された物である事、
そして、彼らの御遺志に報いるためにも、
医学生としてこの実習を有意義な物にしていって欲しいということ。
黙祷後、解剖自体の説明に入る。
器具の使い方、切開の方法など。
このあたりでは俺は目の前に死体があるという事を
表面的には忘れていたのかもしれない。
頭から消そうとしていたというのが正しいのだろうか。
そしていよいよ実習に入る。
乾燥防止用ビニールを開き、敷布をめくっていくと、
徐々に徐々にあらわになる「人間の」体。
恐る恐る触ってみると、ずっしりと、そして冷たい。
「意外と硬いんだね。」「切れるのかなあ。」
「けっこう痩せ型だよね。」「誰から始める?」
実習班の仲間と必要以上に会話を交わす。
不謹慎と思われるかもしれないが、
その場にいた全員が、とてつもなく深い
「死」という感覚に直面し、
それをすぐには受け入れられなかったからかもしれない。
俺は身内の死とか、そういう場面で「死」に向かい合った経験はある。
しかし、目の前に横たわっているのは見も知らぬご老人だ。
これから始まる実習は、死を受け入れる手順として
葬式のような通例化された儀式がある訳でもなく、
俺たち自身が「死」と向きあい、自分なりに受け入れていかねばならない。
しかも、向き合うだけではなく、メスを入れなければならないのだ。
メスを持ち、第一刀を入れる。ここからは全員必死だ。
狭いエリアに5人が集結してしまい、
時には作業をしながらも前が見えない状態になる。
今日の課題は「皮膚の剥離」。
1時間も経つと、全員作業自体には慣れてきて、
チームワーク、そして個人の手際もだいぶ良くなってきた。
そして、「死」に対する動揺以上に、
皮膚下に広がる人体組織の精密さに目を奪われた。
正直を言うと、この時俺の感覚では、
自分が切開しているのは「実習の対象」であり、
それが「人間の遺体」である事を一瞬忘れていた。
今日の作業が終わり、御遺体に再びシーツをかぶせる。
御遺体の背中を支える器具を外すために、
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10月02日(水)
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