ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■6245,閑話小題 〜さらばハイセイコー
<「さらばハイセイコー」寺山修司
先週末に競馬の「皐月賞」が行われ、前評判の高くない「エポカドーロ」が
優勝をした。名馬といえば、「ハイセイコー」が、あまりに有名だが、寺山の、
詩も、印象に残っている。当時、この詩を読んことを思いだして検索をすると、
出てきた。ネットは実に便利である。別に競馬ファンでもなくても、社会現状に
なるなら幾つかの名場面をTV観戦をし、この詩を読むことも当然だった。
「ふりむくな、ふりむくな、後ろには夢がない… 」と言うのは分かるが、
どうしても、ふりかえざるをえないのは、仕方があるまい。
――
――
* 「ふりむくな、ふりむくな、後ろには夢がない… 」
ふりむくと
一人の少年工が立っている
彼はハイセイコーが勝つたび
うれしくて
カレーライスを三杯も食べた
ふりむくと
一人の失業者が立っている
彼はハイセイコーの馬券の配当で
病気の妻に
手鏡を買ってやった
ふりむくと
一人の車椅子の少女がいる
彼女はテレビのハイセイコーを見て
走ることの美しさを知った
ふりむくと
一人の酒場の女が立っている
彼女は五月二十七日のダービーの夜に
男に捨てられた
ふりむくと
一人の親不孝な運転手が立っている
彼はハイセイコーの配当で
おふくろをハワイへ
連れていってやると言いながら
とうとう約束を果たすことができなかった
ふりむくと
一人の人妻が立っている
彼女は夫にかくれて
ハイセイコーの馬券を買ったことが
立った一度の不貞なのだった
ふりむくと
一人のピアニストが立っている
彼はハイセイコーの生まれた三月六日に
自動車事故にあって
失明した
ふりむくと
一人の出前持ちが立っている
彼は生まれて始めてもらった月給で
ハイセイコーの写真を撮るために
カメラを買った
ふりむくと
大都会の師走の風の中に
まだ一度も新聞に名前の出たことのない
百万人のファンが立っている
人生の大レースに
自分の出番を待っている彼らの
一番うしろから
せめて手を振って
別れのあいさつを送ってやろう
ハイセイコーよ
おまえのいなくなった広い師走の競馬場に
希望だけが取り残されて
風に吹かれているのだ
ふりむくと
一人の馬手が立っている
彼は馬小屋のワラを片付けながら
昔 世話したハイセイコーのことを
思い出している
ふりむくと
一人の非行少年が立っている
彼は少年院の檻の中で
ハイセイコーの強かった日のことを
みんなに話してやっている
ふりむくと
一人の四回戦ボーイが立っている
彼は一番強い馬は
ハイセイコーだと信じ
サンドバックにその写真を貼って
たたきつづけた
ふりむくと
一人のミス・トルコが立っている
彼女はハイセイコーの馬券の配当金で
新しいハンドバックを買って
ハイセイコーとネームを入れた
ふりむくと
一人の老人が立っている
彼はハイセイコーの馬券を買ってはずれ
やけ酒を飲んで
終電車の中で眠ってしまった
ふりむくと
一人の受験生が立っている
彼はハイセイコーから
挫折のない人生はないと
教えられた
ふりむくと
一人の騎手が立っている
かつてハイセイコーとともにレースに出走し
敗れて暗い日曜日の夜を
家族と口もきかずに過ごした
ふりむくと
一人の新聞売り子が立っている
彼の机のひき出しには
ハイセイコーのはずれ馬券が
今も入っている
もう誰も振り向く者はないだろう
うしろには暗い馬小屋があるだけで
そこにハイセイコーは
もういないのだから
ふりむくな
ふりむくな
後ろには夢がない
ハイセイコーがいなくなっても
全てのレースが終わるわけじゃない
人生という名の競馬場には
次のレースをまちかまえている百万頭の
名もないハイセイコーの群れが
朝焼けの中で
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04月19日(木)
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