ID:54909
堀井On-Line
by horii86
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■5637, かわいい自分に旅させよ ー③
            <『かわいい自分には旅させよ』浅田次郎著>
   * 芸術とは
 ここで著者は、芸術について簡潔に述べている。ツアーの行き帰りの
主要都市(ロンドン、パリ、フィレンチェ、マドリッド)にある、美術館、
博物館で、世界的名画や美術品を見て周って、感動の蓄積が多く残っている。
それが自分を大きく変えていた。大自然の絶景の感動とは別に、美がその
まま表現された芸術作品に同化しているうち、美への感動が、魂そのものを
高めてくれることを実感した。 芸術とは、本来、そういうものである。
≪ 美しいものを美しいままに表現することが芸術。
 それを「言葉」でなそうというのが文学。
さらに、それを「物語」という形式で表そうというものこそ、小説です。
理屈も何もいらない。そこに理屈を持ち込もうとしたから、芸術は退行した。
これは芸術の都に住むパリジャンの罪です。
 医学が肉体の病を癒すように、芸術は心の憂いを除くためのものであると、
僕は信じています。だからこそ芸術は尊い。
 芸術家がそうした本来の使命を忘れて芸術なるものを衒い始めたときから、
アニアックな、アカデミズムの一部に成り下がった。たとえば神が作り給う
た天然のように、誰がどう見ても理屈抜きに美しいものの存在を、僕らは
見失おうとしているのではないでしょうか。
 自然は美しい。もちろん、その自然の中の人間の営みも、僕はそれらを
小説として表現するにあたり最も直截的な感情表現である「ユーモア」と
「ペーソス」を用います。それが小説家としての僕の方法だと思うから。
 僕には夢があります。
バチカンで、ルーブルで、フィレンチェで、僕は奇跡を見ました。
ミケランジェロは明らかに、古代芸術家を超えた。文明の進化とともに
衰弱する芸術家の宿命の中の、これは奇跡です。
 彼が一本の鑿で、一個の大理石の塊にうがち出した奇跡を、僕は一本の
筆で、一枚の紙に書き表したい。限りない感動を、かけがえのない美を。≫
 ▼ 美の中で、20歳前半の一瞬咲きほこった女性の美しさもナマモノ
  だからこその美しさがある。ただ、あまり話さない方が良いのが多いが。
 女性だけでない、動物の美しさもある。花の美しさもある。誰が、設計
したのだろうか。美はバランスというが、美そのものを感じ取る感覚が
見る側に必要になる。これは質量を多くコナスことで磨かれ、高めることが
可能である。「人間は何のために生まれてきた?」の答えとは、
「大自然と、人間がつくり出した創造物に触れ、感動するため、生まれて
きた!」である。心の憂いで覆われ濁った、「今、ここ、私」の目の汚れを
取り除くため芸術がある。セッカク貰った命、もっともっと、味わなくては!

・・・・・・
5272,「エリック・ホッファー自伝」〜⑦ 『希望より勇気を』
2015年08月21日(金)
            「エリック・ホッファー自伝」中本義彦訳
   * ホッファーが生きた時代背景と、弱者
 ホッファーは、自分の生きた時代背景と、そこに適応出来ない人々の
精神状態が、いかなるものか?を、自身をそこに置くことで詳細に観察した。
当時は、現在の断絶の時代に酷似しているようだ。情報機器を使いこなせない
中高年たちは、情報段差に呆然とするしかない。それでも、タブレット、
スマホの普及がフォローをしてはいるが。物理的な金銭に加え、現在は
情報格差の問題が加わっている。  
≪ ホッファーが分析の対象としたのは、何よりも同時代の「気質」であり、
 そこに生きる人々の「精神状態」であった。近代人は、長きにわたって拘束
された神から逃れ、ようやく自由を手に入れたものの、今度は、
「かれ自身の魂の救済を、しかも四六時中、行なわねばならなくなった」。
自らに対して、そして社会に対して、自らの価値を日々証明し、自らの存在を
理由づけなければならなくなった。 これは容易ではないし、絶え間なく変化
する社会に生きる一個の人間にとっては途轍もない重荷である。

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08月21日(日)
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